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「……そんで、お前はさっきから何見てんの?」
陽影は目を細め、グラウンドを見つめる。
「羨ましいと思ったんだ」
「羨ましい?」
「俺もあんなふうに、誰からの制限も受けずに外を走り回ってみたい」
「お前もしかして病弱なの? ドクターストップかかってるとか?」
「そういうわけじゃないけど」
陽影は首を横に振った。
「俺の仕事は肌を見せることが多いから、できるだけ体は綺麗にしておく必要があるんだ。ファンデーションで大体は隠せるが、それでも怪我をしないに越したことはない」
「海外ではどうしてたんだ?」
「俺の暮らしてきた国は医療費が高かったから、あまり怪我をしたくなかった」
ワオ、それは何とも現実的な問題ですこと。
「でも、金持ちなんだろ。医療費くらい払えんじゃねえの?」
「そうかもしれない。でも……一番はやっぱり、些細なことで、親の手を煩わせたくなかったのかもしれない。そんなことで怒る人じゃないと分かっていても、それでも嫌なんだ。俺が嫌なんだ」
ああ、何だか、すごく気持ちは分かるなそれ。
俺も同じだ。姉ちゃん達は怒らないし、むしろ心配してくれると分かっているけど、それでも迷惑をかけるのが嫌で、言わないでいることも多々ある。
俺も親の転勤で引越してばかりだったし、こいつと俺、結構似た境遇なのかも。
ま、キャパシティだかケーパビリティだかは全然違うけどな。
陽影は窓を開けた。窓枠に肘を置き頬杖を突き(痛そうだ。数秒ごとに手を組み替えている。馬鹿だ)、生徒達のはしゃぐ様子を聴覚と視覚でもって噛み締めている。
吹き込む風が陽影の前髪を揺らす。滅多に見られない目元が顕になると、いつもの数倍、こいつの顔立ちが幼げに見える。
瞳の色が薄いほど、目に入る光量は多くなるらしい。俺達一般人にとっての普通はこいつにとっての普通ではない。こいつの目には、眼前の光景はどれだけ眩しく、輝かしく映っているんだろう。
「……友達ってのは」
ふと、言葉が口をついて出る。陽影の視線が俺を捉える。
「別に、特別なことはしなくてもいいんじゃねえの。ただ、なんかやりたいことがあったら一緒にやって、楽しんで。たまに喧嘩して、しばらくして仲直りして。そんで……そいつが困ってる時、黙って悩みを聞いてやるとか、何もできなくてもそばにいてやるとか」
照れ臭くなって、俺は笑った。
「そういうのが、俺の理想かな」
陽影もまた、唇の端をゆっくりと上げ、優しく笑う。
「分かった。そうするよ」
出会って半月で、俺達は友達と呼べる仲になった。
次回の更新は3月18日 17時10分投稿予定です。




