異世界に転生した俺がスローライフするはずがチートで無双して勧誘されるがもう遅い
オレの名前はトウマ。
地方貴族の次男として生まれた。
年の離れた兄は、すでにエリート街道を爆進中らしい。
落ちこぼれのオレとは、まさに正反対だ。
魔力適性も弱いオレは、家の中でも肩身が狭い。
――というのが、この世界でのオレらしい。
元々のオレは、残業続きでヘトヘトの社畜だった。
ある日、トラックに跳ねられてあっさり御臨終。
そして――
神様がそんな不憫なオレを見兼ねて、異世界へ転生させてくれたってわけだ。
しかも、その神様。
サービス精神がやたら豊かだったらしい。
おかげで、オレのスペックはチート級になっている。
……だが。
オレとしては、そんなのどうでもいい。
目立たず。
波風立てず。
のんびりスローライフを満喫したいだけだ。
だから、出来るだけ自分のチート能力は隠すことにした。
そんなわけで――
オレは自ら落ちこぼれを演じながら、
「貴族の次男」という最高のポジションに満足している。
だが。
地方貴族とはいえ、魔法学校へ通うことだけは避けられないらしい。
こうしてオレは、入学試験会場までやって来た。
さて。
ここからが本番だ。
出来るだけ目立たず。
チート能力は隠したまま。
平均点で、さっさとクリアしてやる。
「我が名に応えよ、炎の精霊。
契約の火を束ね、我が敵を焼き尽くせ。
ファイヤーボール!」
――ボォン!
「おお! さすがは王子!」
「王族の魔法は格が違うな!」
「あんな大きな火の玉、見たことがないぞ!」
おいおい。
なんでみんな、魔法を使う前にわざわざ詠唱なんて面倒なことをしてるんだ?
そんなことを考えながら、オレは周りの様子を眺めていた。
……なるほど。
どうやら、この世界では詠唱が当たり前らしい。
やれやれ。
オレもみんなに合わせたほうが良さそうだ。
「たしか、炎の……契約の……」
やばい。
即興でそれっぽい言葉が思い付かない。
「えーっと……あれだ」
もういいや。
「ファイヤーボール!」
――ズゴゴゴゴゴオオオオン!
次の瞬間。
轟音とともに、地面が揺れた。
あれ?
オレは首をかしげる。
威力、かなり絞ったハズなんだけど……
「おい! 的が木っ端微塵に弾け飛んだぞ!」
「どうなってるんだ! 早く消化しろ!」
訓練場は一瞬で大騒ぎになった。
……え?
そんなに?
燃え上がる的を見ながら、オレは心の中で叫ぶ。
ちょっと神様!
オレの能力、チート過ぎませんか!?
オレは平凡で、目立たない生活がしたいだけなんだが……。
「貴様か。試験で目立つ為に細工をしたという奴は」
気が付けば、王族の皆様に囲まれていた。
「あまり調子に乗るなよ」
なるほど。
つまり――ロイヤルファミリーより目立つな、ということか。
こっちは好きで目立ったわけじゃないんだがね。
翌日、王族の権力というものを実感させられた。
どうやら入学試験でのオレの点数は、最下位にされたらしい。
まあ、それはそれで都合がいい。
……と思ったんだが。
「おい、最下位。王族の前に立つな」
どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
完全に目を付けられてしまった。
それからというもの――
王族の連中は、なにかとオレに絡んでくるようになった。
「大丈夫? トウマくん」
オレに駆け寄ってくるこの美少女は、成績トップのクレアだ。
なにかとオレを気に掛けてくる。
「もう、王子様だからって酷いわ!」
その時だった。
突然、学園が魔族の襲撃に遭った。
窓ガラスが砕け散る。
オークやゴブリンが教室へなだれ込み、生徒たちに襲いかかった。
その中の一体――
巨大な斧を持つオークが、王子様目掛けて武器を振り下ろす。
「くそ、仕方がない」
オレはすぐさま生徒たちに防護盾を付与した。
「おい……俺、生きてる……」
王子様は、何が起きたのか理解していないようだ。
やれやれ。
防護盾も知らないとは。
オレは生徒たちの前へ出ると、魔物たちの前に立ちはだかった。
「キエエエエエエ!」
魔物たちが一斉にオレへ飛びかかる。
「ふん、雑魚が」
オレは魔物たちに向かって、指を鳴らした。
――パチン。
次の瞬間。
魔物たちの身体が炎に包まれ、あっという間に消し炭となった。
「お、おい……最下位。お前……」
震える声で王子様がオレを呼ぶ。
そして――
その場で土下座した。
「頼む! 俺のパーティに入ってくれ!」
「もう遅い」
オレはそう吐き捨てる。
そしてクレアを抱き寄せた。
「既に先約があるんでな」
クレアの顔が真っ赤になる。
そして――
オレとクレアは、熱い口づけを交わした。
* * *
見慣れた世界。
見慣れた展開。
見慣れた物語。
この世界で、透真の意識は停滞していく。
この先に何が起こるのかも、だいたい予想がつく。
それが――
透真を安心させていた。
静かに眠る透真。
その傍らで、女性が頬杖をつきながら透真を見つめていた。
視線の先。
透真の胸元では、想綴が淡く輝いている。
女性はそれを指先で軽く突いた。
「今はその時じゃないの。眠ってて」
優しく囁くような声だった。
真っ白な世界。
音もない。
時間の流れすら感じられない空間。
その中で――
ただ二人だけが存在していた。




