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つぼみ ──ノライ──  作者: モリサキ日トミ


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居心地がいいと思うもの

アヤカの話を聞いて民宿の女将、可南子が絶句する。

アヤカは口数が多くなく真面目な娘だ。彼女がここに来てから一つ屋根の下で一緒に過ごして、可南子はそう思っている。今、話をしたアヤカの顔は真剣そのものだ。だが彼女の口から出た内容はにわかに信じがたい。

「おかしな事を言ってすみません。でも私の住んでいる家の辺りは、多くの行方不明者が出ています。これを見てください」

アヤカはスマホに表示させたある記事を熱川夫婦に見せた。それはローカルニュースをいくつもスクリーンショットしたものだった。

「私の自宅の周辺は、大きな川や広範囲に広がる水路などがあって、そこには、ある植物が太く長い根を伸ばしていて、夜になると川べりや河原にたむろっている若者を絡め取り水の中に引きずり込んでいるようです」

感情を押し殺してアヤカは話を続ける。

「私は臆病者なので、それに出くわさないように自宅から遠く離れたこの場所に来たんです。山や湖のあるところは水脈が張り巡らされて根を伸ばしてきそうなので、植物が嫌う海辺に逃げて来ました」

「確かにアヤカちゃんが台帳に書いた住所の近くで奇妙な事件が起きているみたいね。ああ、何となく覚えてる。確かに一時期テレビでもやっていたかも。でもそんなことが今でもたくさん起きたらローカルニュースだけじゃなくて、メジャーなところでもずっと話題にするはずじゃない。いえ、疑っているわけじゃないのよ」

アヤカのスマホに表示されたニュースを見ながら可南子が言った。

「それに、今のアヤカちゃんの話だとその大きな根っこは別にあなたを狙って伸びているわけではないのよね。なら、あなたがここにずっといても私たちには害はないんじゃない。あなたが嫌でなければ、ここで暮らして私の話し相手になってくれないかしら」

アヤカは、可南子や権三の素朴で実直な人柄に癒やされていた。出来ればこのままここにいたいと思った。可南子はアヤカが狙われているわけではないのだから、ここにいればいいと言ってくれた。

確かに自分は狙われてはいない。だが、ノライはアカを探しているのだから、ここに向かって来るかも知れない。

「可南子さんの気持ち、とっても嬉しいです。あの、少し考えさせてください」

アヤカは自分が泊まっている部屋に戻って首に下げている小さな巾着袋を握った。そして思った。確かにノライの根に襲われた人々の件について始めの頃は様々な媒体で取り上げていたのに、最近はテレビもラジオも取り上げられていない。

「ねえアカ、なんでだろう?」

──わからない。ねえアヤカ、私を捨てて。

「またそんなことを言うの」

──そしてここでのんびり暮らして。

「私はアカと一緒でないと嫌よ」

──このままじゃ、ノライはここまで伸びてくる。

「じゃあ、ここを離れましょう。可南子さんはとってもいい人よ。良くしてくれてありがたいわ。でも私は、あなたが一番大事なの」

──ありがとう。まだノライの気配は感じないけど、もし近づいて来るとしたら海と反対側、遙か向こうの山の地下深くから伸びてくる。

「少しでも何か感じたらすぐに教えて」

アヤカの言葉にアカは返事をしなかった。

「アカ?」

アヤカの呼びかけにアカは沈黙した。

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