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つぼみ ──ノライ──  作者: モリサキ日トミ


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姿無く彷徨うもの

私の体はメアリが浴室で育てているノライに吸収され消化されこの世に存在しなくなった。

私の体がまだ存在していた頃、アヤカは私に甘えて尽くして優しくしてくれたが、少し鬱陶しく思ってしまった。そんな時、初めてメアリに出会って彼女の瞳の変化する色や虹彩の模様が美しくてたまらなくなり夢中になった。私はアヤカの言うことを聞かずにメアリの家に入り浸って、その結果、結局ノライの栄養になってしまった。

あれから、私は意識だけがある、人の目に見えないものになり彷徨っている。つまり成仏出来なかっただけなのだろうが、これはこれで案外快適だった。腹も減らなければ喉も渇かない。暑さ寒さも感じなければ痛さも痒さもない。しかも、あちらこちら難なく動き回れるし、瞬間移動も出来そうだ。どこにでも潜り込める。ただ実体が無いのだから、ものを掴んだり動かしたり出来ない。もし、アヤカが危険な目に遭いそうになっても手を差し伸べられないし、言葉で危険を伝えることも出来ない。

それでも罪滅ぼしの気持ちで、アヤカを見守り何か手助けをしたかった。

彼女は今、自分の住まいを離れ遠い所にいるようだ。

それは、メアリの家とその両隣で根を張って、そこから水脈に入り込み広範囲に貪欲な白く太い根を伸ばし続けているノライから遠ざかるためなのだろう。

アヤカはあの時、露天商をしていたメアリから小さなノライを買った。メアリとは違い、心優しい彼女は購入したノライと仲良く過ごしているようだった。自分の住まいを離れたアヤカは、そのノライと共にいるのだろうが、水耕栽培の植物を持って旅に出たのだろうか。私は何もしてあげられないが、それでも彼女を見守りたかった。

もしアヤカが小さいとは言えノライを携えて旅に出たのなら結構荷物になるのではないか。いや、優しいアヤカは荷物になっても自分の育てているあの蕾がメアリの貪欲なノライの餌食にならないように一緒に住み慣れた街を離れたのだろう。

それなら、私は何の役にも立たないだろうが、それでも見守ろうと思った。彼女の行き先は何となくわかっている。アヤカは水辺が好きだ。川や湖は地下深く流れる水脈に乗って大きなノライの根が姿を現すかも知れない。

海。ノライたちもわざわざ海水で塩漬けにはなりたくないだろう。だから海辺の町に身を潜めているに違いない。


そして鄙びた漁港にアヤカの姿を見つけた。

もちろん私に目は無いのだがそれに近い何かで捉えているみたいにわかるのだ。

私はここで彼女を見守ることにした。

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