旅に出るもの
アヤカは、水断ちをしてドライフラワーのように乾燥し小さく縮んだアカをガーゼに包みそれを小さな合皮の巾着袋に入れて、ペンダントのように首からぶら下げた。
「アカ、窮屈でごめんね。辛くない?」
──大丈夫。これであなたと一緒にどこにでも行ける。
「もう、オスのノライに匂いを嗅ぎつけられたりしないのね」
──大丈夫。でもね、もし、もしオスのノライに気づかれたら躊躇しないで私を相手に投げつけて、あなたは逃げて。
「嫌よ。そんなこと出来る訳ないでしょう」
──お願い。お願いだから、いざという時には私を投げて。それだけは約束して。
「………」
──アヤカ、お願い。そのことを約束してくれたら私の気持ちが安らぐの。ねっ。
「……わかった」
そう言うと、アヤカの胸元にぶら下げられた巾着袋が心なしか暖かくなったような気がした。
「それで、私たちはこれからどこへ行く?」
──とにかく、ここから遠いところに行きましょう。
大ぶりなトートバッグに最低限の必需品を詰めてアヤカとアカは旅に出ることにしたのだ。
今までアカが収まっていた水槽の辺りを観察出来るように見守りカメラをセットして、時々確認することにした。
「それじゃ出発ね」
アヤカは玄関のドアを閉め鍵をかけると最寄り駅へ向かった。
そして当てのない旅が始まった。
その頃メアリは家の奥の浴室に顔を出し、オスのノライに話しかけた。
「あなた、メスのノライは見つけられたの?無理よね。あなたの目的がメスと交わって取り込むことより、人を喰らうことにシフトしてるものね。まあ、栄養を蓄えることも大事だけど、あんまりのんびりしているとこの家の両隣で巨大化したノライたちに先を越されちゃうわよ」
メアリの言葉を完全に無視する態度を取るノライだった。
「まあ、いいか。好きにするといいわ。でもね、あんまり好き勝手してると痛い目に遭うかもしれないわよ」
ノライはメアリのアドバイスなど、どうでもいいようだ。
太く長く伸びた白い根は、人を捕食することに夢中だった。
最近は、水の中だけでは無く水辺に近い所だったら土の中でもその根を伸ばし、人に巻き付き暗い中に引きずり込んでいった。
人間は美味しい。
大きな蕾を紫色に輝かせてノライはその根を伸ばし続けた。




