川から伸びるもの
例の河原では行方不明者が続出し始めて、ようやく若者たちのBBQのやりたい放題は下火になった。その代わり、なぜその辺りで行方不明になるのか、そこで何が起こっているのか、怖いもの見たさでやって来る輩が後を絶たなくなった。
みんな何かを動画に収めようとスマホを片手に真っ暗な河原を歩き回る。
節電のため、地域の行事が無い時は河原に設置された外灯は点灯されない。
その夜も、十代後半から二十代前半の何組かの若者が肝試し代わりに動画を撮りながら河原を歩き回っていた。
それは男二人と女一人の社会人になったばかりの三人組だった。
「噂によると、私たちが今いるこの場所より、もっと水際まで行った人が行方不明になってるみたい」
「じゃあウチらも水際ぎりぎりまで行ってみようぜ」
「おう、行こう行こう」
「私はちょっと…」
「そんなこと言うなよ。みんなでスクープを撮ろうぜ」
「せっかくだからリアルタイムで配信しようよ」
「何も起きなかったら、格好悪いよ」
「その時は、悲鳴を上げながら何かに追われている体で演技してさ、それらしく締めればいいじゃん」
「それもいいか。よし、生配信いくよ」
男が川をバックにスマホに向かって話し始めた。
「こんばんは。俺たちは今、最近話題になっている、とある河原に来ているんだ。最近起こってるあの事、みんな知ってるよね。そう、この辺りで行方不明者が続出してる。そこでこの河原で一体何が起きているのかレポートしまーす」
そして暗闇の中、水辺へと三人は歩いて行った。
夜景モードで撮っているが殆ど映らない。
「おい、暗すぎて何も見えない。懐中電灯点けて」
「了解」
仲間の一人が川の方に向けてかなり明るい光源のライトを当てた。あまり広い範囲は照らせないが、それでも水面のうねりを映すことはできた。
「今夜は風があんまり吹いてないから静かで、水の流れる音が響いてまーす。なんか不気味だねえ」
男はスマホに向かって臨場感を伝えようと必死に喋っているので気づかなかったようだが、配信を見ている側から多くのメッセージが流れた。
──うしろ!
──逃げろ!
──早く!
「反応あるね。みんなノリがいいじゃん。それじゃもう少し…」
そこで配信は止まった。
それは一瞬に起きた。そこにいた三人全員が川から伸びたいくつもの白く太く長いものに巻きつかれ水の中に引きずり込まれた。
彼らは何が起きたのかわからないままこの世を去ったが、配信を見た人々は何故この河原で行方不明者が続出したのか理解した。
正体のわからない長いものが川から出現し、それらが人間を絡め捕ったのだ。
その映像は拡散され、真面目な報道番組でも取り上げられた。
その頃、メアリの家の浴室では彼女がノライの蕾に向かってニヤリと笑った。
「あなた、なかなかやるじゃない。すっかり世間の注目の的よ」
黄緑色の蕾の中心が、ぼうっと紫に光る。
「ねえあなた、人の味をすっかり覚えちゃったわね」




