追われるもの
用水路付近で消息を絶った人が二十人を超えたと、様々なメディアが伝えている。
今朝も、アヤカはノライの前に座って、新聞社が発信しているニュースサイトを閲覧していた。
「ノライ、大変な事が起きているね」
──アヤカ、むこうのノライは、すいみゃくをたどって、ねっこをのばしつづけてる。
「水脈?」
──そう。もし、それがこちらにもつながってたら、ねっこはここまでくるかもしれない。
「どうしよう。なんか怖くなってきた」
──なにか、てをうたないと、このへんもきけんになる
「そうなの?」
──たぶん、ノライはわたしをさがしている。
「どう言う事?」
──メアリのノライも、そのとなりのノライも、みっつともオスのかぶ。
「そうなの?」
──わたしはメスのかぶ。
「あなたは女の子なのね」
──あいつらは、わたしをとりこみたいの。そしてわたしは、たねをやどして、かれる。
「枯れるって、そんなの嫌よ。オスのノライがあなたを探すのは新しい株を誕生させるためって事ね」
──そう。
「でも、あなたはメアリさんのところにいたのよね。なぜ、彼女のところにいるノライに取り込まれずにいられたの」
──わたしはメアリのいえにはいなかった。
「じゃあ、何でメアリさんの露店に並んでいたの?」
──みじかいじかんなら、ひとをあやつれる。
「それで?」
──アヤカがわたしをかったひ、わたしをそだててくれたおばあさんがしんだ。
「あなたは、おばあさんに育てられたのね」
──おばあさん、ボケていたから、あやつった。
「認知症のおばあさんを操ったの?」
──そう。それからメアリもあやつった。あのひ、みちでしょくぶつをならべていたメアリに、わたしをうるように、おばあさんをしむけた。
「そして、私があなたを買ったのね」
──そう。
「で、おばあさんはどうしたの?」
──わたしをてばなしたとたん、しんぞうがとまった。
「えっ、それってあなたが必要の無くなったおばあさんを殺したの?」
──ちがう。あれはとつぜん、おこった。わたしはかなしかった。
「そうか。わかったわ」
──アヤカ、わたしをしんじるのか?
「ええ、信じるわ。あなたに触れてた時、感じたの。あなたは私のことを思ってくれてる。私を気にかけてくれてる」
──しんじてくれてありがとう。わたしはアヤカをまもりたい。
「ありがとう。私もあなたをオスのノライから守ってあげたい」
アヤカは蕾にそっと触れた。植物なのに微かに暖かさを感じた。
「それで、オスのノライの根がこちらに近づかないようにするには、どうしたら良いの」
──まだ、あわてなくてだいじょうぶ。
「でも、私が仕事でこの部屋を空けると、あなたはひとりになってしまう。とても心配だわ」
──アヤカは、しんぱいしょうね。
「当たり前でしょ。あなたは私の大切な仲間だもの」
──アヤカ、とにかくみずのありそうなところへ、いかないで。
「メアリさんは、今はここを知らない筈だけど突きとめられたらどうしよう」
──たぶん、もうしっている。
「えっ」
──このいえに、けっかいをはった。ここには、アヤカしかはいれない。
「メアリさんはこの家に入れないのね」
──このいえに、たどりつけない。
「私はあなたのために何をすればいい?」
──いつものように、みずをくれればいい。
「わかった」
夜、灯りのついたアヤカの家を少し離れたところから見つめるメアリが微笑んでいた。




