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出会い

 10階層ボス部屋。


「ブモモオオオオオオオオ!!」

「うるせえええええ!!!!」


 ハヤテは迷いに迷いながらダンジョンを突き進み、ボス部屋にてオークと戦っていた。手にはスレッジハンマー、服装は学生服(学園特別製)のままと言うセオリーをガン無視した格好で、真正面からオークの棍棒と殴りあっている。一学期の序盤だから、一年は誰もここまで深くは潜らないから、脇道のモンスターを大量虐殺しているから。そんな複合要因が積み重なって、不釣り合いに育ったハヤテは1年生パーティでの試練とも言える相手に、力押しを可能としてしまっていた。


「うをっ!!」

「ブモっ!?」


 殴りあって十数分。バキンッと同時に二人の武器がへし折れる。刹那の間、互いに目を合わせ硬直し、しかしニヤリと互いに笑って拳で殴り合いを始める。もはや二人に言語の壁はない。お互いに力なら負けぬと防御をかなぐり捨て、ただただ相手の顔面に向けて拳を叩きつけていた。


 馬鹿どもの決着まで残り1時間。



 □■□



 午後の授業。


 少女、サキはゴブリンと戦闘を繰り広げる同級生の戦いを眺めながらため息をつく。


「何たそがれてんのよ」

「うん、どんどん差がついていくのかなあって」


 隣に座る友人の言葉に彼女はぽつりと言葉を漏らす。


「あぁ、あのハヤテって奴?真面目にダンジョンに潜ってる組みたいね」

「あまりレベル差付くと厳しいなあって」

「二年の先輩たちに比べればずっと低いわよ。夏休みのぱわーれべ……何とかで追いつけるでしょ?」

「……うん」


 静かに顔を伏せるサキ。そんな彼女に友人は笑う。


「なら、お昼でも誘ってみれば?特弁だっけ、抽選の当たり券を貰ってたでしょ」

「でも、買ったお弁当だと家事の出来ない女だと思われるかも」

「寮に自炊所なんて無いし、私らもそんな余裕ないでしょ?あっちもそれくらい分かってるわよ」

「でも、どうやって誘ったらいいかな……」


 ぐずぐずと悩むサキの肩を、何を下らないことで悩んでいるのかと呆れた表情で叩く。


「悩むくらいなら声を掛けなよ。少しだけ手伝ってあげるから」

「うん、ありがとう」



 □■□



「ブモッ……ブモォ……」


 ハヤテとオークの殴り合い。延々と続いたそれはようやく終わりを迎えようとしていた。ガード無しでの殴り合い、体格的に有利であるはずのオークの膝が折れ、地面に蹲る。追撃を行おうとするハヤテは、しかしニヤリと笑うオークの表情に手を止めて、相手の動きを待つ。


「ブ、モッ!!」


 それにどういう意図があったのか。オークは折れた指でサムズアップするかのように親指を立て、そして立ち上がろうとして地面へ崩れ落ちる。そして二度と立ち上がらなかった。


「……強敵、だったな」


 消えゆくオークを見つめながらハヤテは呟く。

 そして、その消えた身体の下に魔石とは違うアイテムを発見し、それを手に取った。


「ホッケーマスク?」


 そう、それはホッケーの防具であるマスク。それも金曜日な13日で有名な映画で、一躍有名になったフルフェイスの『アレ』だ。ダンジョン産の防具がこのダンジョンで出るという事も衝撃的だったが、それ以上にあまりにファンタジーなダンジョンに似つかわしくないそれに、ハヤテは困惑する。


「なあ、お前ら馬鹿じゃろ?」

「うん?」


 そして更に困惑が増える。ホッケーマスクに腰掛けるようにする手のひらサイズの小人。黒髪ロング姫カットに黒の和服ロリと言う特定の層に全力で媚びを売るその存在は、マスクの上に座りながらもハヤテに重さを一切感じさせずに呆れた表情で問いかけていた。


「武器を失ったら撤退せえよ。何で二人して死ぬまで殴りあうんじゃ?なあ、繰り返すがお前ら馬鹿じゃろ?」

「馬鹿ではない……筈だ」

「自覚はあるのな。なあ、初めての主人が馬鹿に当たった妾を可哀想と思わぬか?しかも無駄に危険なギフトを手に入れおって、溜め込んだマナを全部使ってしもうたぞ?これでまた数年は妹が顕現出来ぬ。そんなお主に、あっさり馬鹿みたいに死なれるとこちらが困るんじゃが」


 馬鹿だ馬鹿だと連発し、そして大きくため息をつく小さな少女。


「このマスクに宿る精霊か何かか?」

「……そのようなものじゃ。『領域』限定でしか出てこれぬがな」

「煩いし売って武器に替えるか」


 あっさりと言うハヤテに、少女はニヤリと笑う。


「このマスクの権能は『ギフト無効』『不懐』じゃ。鑑定してもただのホッケーマスクとしか分らぬよ」

「まあ、捨てても良いしな」

「そうか、それでも構わぬが……お主、予告しておくが20階を前に死ぬぞ」


 半ば冗談で口に出していたハヤテだが、その動きがピタリと止まる。


「この先は獣の階層じゃ。上層とは違い大量に出てくる狼の牙や猿の投擲、虎の爪と牙にソロのお主が耐えられるか?先にお主が倒したオークなど狼の群れ相手には肉の多い餌にしかならぬ。妾を捨てて生き延びるつもりなら、パーティを組むしかないのう。盾職と魔法の使い手が育つのを待つか?」

「お前を持っていれば行けるのか?」

「そう、そうじゃ。その言葉を待っておった」


 少女はマスクの上に立ち上がり笑う。


「妾は第81-11番迷宮の管理精霊アル。契約者に王の知識を与えるが妾が使命。与えようぞ、この世から見て異界なる世界、そこで魔王と呼ばれた存在の、その御業を」

「ほぅ、それはどんな?」

「筋肉じゃ!」


 ……


「魔王の肉体を構成する筋肉。その力をお主に授けよう!」

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