攻略の日々
パァン
音を立ててゴブリンメイジの頭がはじけ飛ぶ。
場所は地下7階。通常のゴブリンの後方に隠れるようにして炎の矢を投射する魔法を使ってくるようになった階層で、ハヤテは相変わらず淡々とゴブリンを屠り続けていた。
「これがスキルの力か」
魔法を使うモンスターを相手にするようになってスキル現実世界の効果をハヤテは実感した。炎の矢であろうと火球であろうと、全て彼の身体に着弾すると共に何も無かったかのように消え去っていく。服に焦げ跡もない、炎の熱も感じない。近接職の天敵である遠距離攻撃で注意するのは投石や弓矢位であった。
「それに矢も怖くはないな」
そして同時に、小柄で不器用なゴブリンでは投石は狙いも荒く、弓に至ってはその体格で使える弓の強さでは、レベルの上がったハヤテにはかすり傷を受ける程度の脅威にしかなっていなかった。まあ、実際には矢じりにダンジョン産の弱毒が塗られているのだが、スキルによって無効化されてしまっており、彼はそれに気づいていない。
『ギギィ?』
「次は向こうか」
そして遠くに聞こえてくるゴブリンの声に引き寄せられるようにして移動するハヤテ。彼は大通りの通路は通っていない。地図があれば迷わないから、だから好き勝手にモンスターに遭遇できる脇道をひたすら進んでいた。もちろん地図はしっかりと読み込んでいる。何日もじっくりと読み込んだ地図。そこから大通りを真っすぐに通れば一気に下の階層に行けることにようやく気づいたのも昨日のこと。しかして試しに大通りを歩いてみればゴブリンとの遭遇も少なく、見つけたと思えば他の学生が襲い掛かっている。これでは効率が悪いと、ハヤテ的に攻略完了とみなした階層以外は素直に脇道の奥に突撃していた。
「あぁ、この先にはたまり場があるのか……ついでにそっちにも寄っていこう。危なくなったら『逃げる』を忘れないようにってな」
そして嬉々としてモンスターハウスに突撃するハヤテ。寮監からの教えをきっちり勘違いしながら、ありえないペースでレベル上げを行っていた。
□■□
入学式から二週間ほど。
二度の週末を挟み、クラスの出席率は7割ほどとなっていた。
毎日真面目に授業を受けるのが4割。
週に1~2日休むのが2割。
授業を受けるが午前と午後のどちらかなのが1割。
殆ど出てこないのが1割に。
ダンジョンでの怪我の療養やや登校拒否で出てこないのが残りだった。
ハヤテは殆ど出てこないグループであったが、知り合いに会うために、たまに朝礼の時間は顔を見せるようになっていた。
「おはよう…………サキさん」
「おはようございます。ハヤテ君」
それは最初に挨拶を交わした少女。名前を覚えるまで少しばかり時間がかかったが、日常会話位は交わせるようになっていた。それもこれも名前と顔が一致しないハヤテに笑いながら付き合ってくれた彼女の努力のおかげではあるが、気安く話せる友人のようなものが作れたのは彼にとって僥倖であった。
『クラスメイトと会話もしたことない?お前は学生だろうが!!』
そんな寮監の言葉が思い起こされる。ハヤテはそんな彼を見返してやったと心の中で自慢しつつ、サキの質問にぽつぽつと答えていく。
「へぇ、もうすぐ10階層のボスなんですか」
「あぁ、地図を持っていれば問題なく行けるよ」
ハヤテは自分が特別だとは思っていない。一年でも何人組かで自分より遅く帰ってくる男子は居るし、そんな彼らが力を合わせて攻略に勤しんでいればハヤテより先行しているのは間違いないと思っている。そしてサキや会話を耳にしているクラスメイトも、大通りを真っすぐに進んでいけば10階層のボス前位までは割と安全に到達できるのも知ってはいる。故に、いろいろと不幸なすれ違いは留まることを知らなかった。
「お互い頑張りましょうね」
「あぁ」