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一週間の鍛錬

「おはよう」


 一回も授業にでないのは不味いだろうと金曜日は教室に向かったハヤテ。クラスメイトの顔は当然のように忘れている彼だったが、何となく記憶に残る女生徒と視線が合い、何気に挨拶を交わす。


「おはようございます、ハヤテさん」


 綺麗な女子だとは思う。しかし彼女の名前を思い出せないハヤテは当たり障りのない笑顔で返し、空いた席が前列にしかないからとサキの隣に目をつける。


「隣、良いかな?」

「どうぞ」

「ありがとう」


 礼をして隣に座るハヤテ。特に女子と会話する話題もないからと黙って教師が来るのを待っている彼は、ふと隣の彼女が何か聞きたそうにしているのに気付く。


「何か?」

「ええと、初めての出席ですよね?ずっとダンジョンに?」

「あぁ、不謹慎だが思ったより楽しくてね」

「危険ではないですか?」


 あぁ、とハヤテも思い出す。女子たちが一学期にダンジョンに潜るのはまず無いと聞いた。ならば興味はあるだろうと、ニコリと笑う。


「2階層位までは群れになっていないから問題ない。地図は買っておいた方が良いけどね」

「地図……ですか?」

「……初日に迷って門限を過ぎそうになった」

「それは、その」

「まあ、よくあることらしい。何人かはそのまま死ぬそうだが」


 苦笑しつつ言うハヤテに、彼女はどう返して良いのかわからず曖昧に返す。そして軽く雑談を続けるが、教師が入って来るのに気付き、自然と会話は終わる。最後に一言、お互いを励ます言葉を掛け合いながら。


「がんばってくださいね」

「お互いにな」



 □■□



 男子寮のその前。


「おうっ!ハヤテ!!宿題はやってきたろうなあ!!」


 仁王立ちになった竹刀にジャージ姿の男性がハヤテを待ち構えていた。彼こそ1年男子寮の寮監その人であり、まあ、想像通り暑苦しい男であった。


「きちんと書いて来たぜ。午後一杯かかっちまった」

「そもそもがっ!地図も買わずにダンジョンに潜るな!!死にてえのか、お前は」

「最初は様子見で入るって言うじゃないか」

「入口付近で引き返すって意味だ!!お前みたいに門限ギリギリまで彷徨う奴はいねえ!!」


 そう、サキにはああ言っていたが、ハヤテが地図を買ったのは今日の朝の事である。

 ハヤテはこの一週間、ずっとダンジョンに潜っていた。ダンジョンに潜りゴブリンを撲殺し、道に迷い。迷った先でゴブリンを撲殺し、門限寸前に帰る。記憶力は良い関係で、同じルートをゴブリンを撲殺しながら第四層の出口まで突撃し、やはり門限寸前に帰って寮監の堪忍袋の緒が切れた。


「で?お前が通ったルートを見せてみろ、言った通り書いたんだろ?」

「おう。間違いないはずだ」


 そして命令されたのが、一階の地図に自分の彷徨ったルートを記録させること。ハヤテの行動から問題点を指摘し改善してやろうと考えての寮監の親心であったが、軽く眺めていった寮監のこめかみに次々と青筋が浮かんでいく。


「ハヤテよう?」

「何だ?」

「最初のここ、何で横にそれてんだ?」

「ゴブリンを見つけたからだな」

「じゃあ、そのあと戻らずにこっちにいったのは?」

「ゴブリンがまたいたからだ」

「ほう。なら、不自然にメイン通路を跨って反対側に突き抜けたのは?」

「ゴブリンとウルフが喧嘩してたからだな」


 淡々と問う寮監に、至極あっさりとハヤテが記憶の中の自分の行動を説明する。


「お前は馬鹿か?」

「頭が良い自信は無いな」


 ビキリッと血管が切れそうになるが、寮監はギリギリで耐える。


「あのな、ダンジョンで一番重要なのは自分の位置を見失わない事だ」

「……この三日で痛感した」

「そうか分かってるなら、本当に理解しているなら良い。だからな、次からは横道にそれたら一旦戻れ。逃げるのも良いが、奥へ奥へと進んでいくのは自殺行為だ。分かったな?」

「分かった。逃げた後は元の場所に戻るようにする」


 ハヤテの瞳に嘘が無いことを確認して寮監は大きくため息をつく。確かにハヤテは嘘を言っていない。寮監はハヤテが消耗した状態でゴブリンとの連戦から逃げて迷ったのだと理解し、ハヤテは一切逃げることなく発見したゴブリンを撲殺していたのだから。故に、不幸なすれ違いは加速する。


「でもまあ、このモンスターハウスに行って無事なのは良かった。ここに迷い込んだ奴は大体死ぬんだ」

(よく見つかる前に逃げられたな)

「あぁ、群れになってるなんて思っていなかった。怪我は無かったしな」

(殲滅するのに少し手間取ったのは反省点だ)


 心の中でやはり致命的なすれ違いをしつつ、寮監はハヤテを解放する。


「魔石で菓子を買うのも構わんが、なるべく晩飯の時間までには帰ってこい」

「時間配分には気を付けるようにする」


 なお、彼は大量に手に入るゴブリンの魔石をズタ袋に詰め込んで持ち帰っているのだが、まさか大きく膨らんだ袋の中身が大量の魔石だとは寮監は思わなず、食事の時間を超過した自覚のあるハヤテがゴブリンの魔石で菓子でも買い込んできたのだろうと理解していた。初日から授業に出ていない関係で、売店で魔石の交換が出来ることをハヤテが知らなかったとは想像もしないままに。

 ……ちなみに地図を買おうとした時に売店のおばちゃんに説明を受けた。


「じゃあ、今日は飯を食って寝ろ。明日からは再びダンジョンへと突入を許可する」

「ありがとう。心遣い感謝する」

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