授業初日
学園生活二日目。
ハヤテは寮でボリュームたっぷりの朝食に満足しながら教室へと向かう。カロリー過多と思わないでもないが、それを必要とするだけの運動量があるのだろう。昨日寮監に提出しておいたダンジョンへの入門申請書がどうなっているかと楽しみにしながら、空いている席へ座る。
「さて、本日は男子と女子は別講義となる。その理由はすぐに分かるから待っていろ」
そして男性教師は黒板にデータを表示する。それは学園での死亡率と退学者のデータ。1年をピークとして、中々に悲惨な数字が並んでいる。
「見ての通り、最初の一か月の死亡率は大したことが無い。これは相手をするモンスターがゴブリンなど比較的に弱いものが多いのが原因だが、代わりに四肢の欠損や視覚の喪失による重度な障害を受けている。さて、その理由が分かるか?」
「モンスターが被害者を嬲るからでしょうか?」
「少し違う」
教師はぐるりと男子たちを見回して言う。
「提出された入門許可証は全員にOKを出してある。だが、これだけは言っておく。人型のモンスターは繁殖行為に人間を使おうとする」
「……?女子をですか?」
「女子はモンスターに妊娠させられないよう、食事に避妊薬が混入されている。まあ、探索者志望なら副作用何てないようなものだからその点は心配ない。問題はな、あいつらに他種族の男女の区別がつかないことだ」
ぞくりと一同の背筋に悪寒が走る。
「モンスターに捕まると、あいつらは自分の巣に連れて行って逃げられないよう手足を折る。抵抗すれば回りが見えないよう目を潰したり、叫ぶようなら舌を抜いたりもする。特にゴブリンは倫理観の無い性欲に塗れた猿だと思え。男だって関係ないぞ、あいつらは穴の区別がつかないからな」
「その、救助とかは?」
「広いダンジョンの何処に居るか分からない生徒をか?上級生は低階層なんか走り抜けるし、そもそもがここのダンジョンは10の迷宮が平行に存在する特殊迷宮だから遭遇率はさらに下がる。週に一度位は行方不明者の捜索に入るがな……それも10周を無給でだぞ、糞が」
吐き捨てる教師に男子たちは顔を見合わせる。怪我をする覚悟はあれど、モンスターに犯される覚悟はない。確かにこんな説明を女子の前では受けられないなと考えたところで、教師は続ける。
「だから入るなら可能な限りペアを組んで入れ。片方が生き延びて戻れば、場所の特定も容易で捜索も早い」
「上級生に手伝ってもらうってのは?」
「パワーレベリングは夏休みまで禁止だ。最低限の地力をつける前じゃあ毒にしかならん。つまりは自分たちの努力で最短で強くなるか、回り道でも授業にでて力をつけていくかのどちらかだ。言っておくが、卒業生の有名どころは大体前者だが、あいつらはギフトにも恵まれた例外中の例外だってのは理解しろ」
お葬式な雰囲気になる男子たちを見回し、教師はため息をつく。ここからの話は不愉快ではあるがしておかねばならぬと、重い口を辛うじて開く。
「ここからが本題だ。お前らみたいな若い学生に言うのは心苦しいが……この学園は男女交際に規制はない。命のやりとりをしてるんだから溜まるものは溜まるし、恋人同士でいちゃつくなってのも限界がある。だがな……」
「?」
「だが、ダンジョン攻略が落ち着いてくる二学期中盤位までは恋人とやるのはやめておけ」
「何故ですか?」
「探索者と寝ると気持ちいいってのは知っているだろう?アレが原因だ。今、お前らが同級生を抱いた後、後日に他のクラスメイトが恋人をレイプしたとする。そのレイプ野郎がお前らよりもレベルが上がっていた場合、簡単に和姦ネトラレが成立しちまう。探索者のセックスは命に係わるレベルのキメセクしてるようなもんだからすげえぞ」
そこで少しばかり男子たちも現状を理解する。今、自分たちは頭に殻のついた探索者の雛なのだと。
「それも秋位になると大した差じゃなくなっている。まあ、ゲーム的な話でいうならLV1とLV10は大きな差だが、LV101とLV110は誤差みたいなもんだ。似たようなレベルなら恋人とやったほうが気持ちいいってのが女ってもんだ」
「大体わかりました。でも経験済みの生徒はどうするんですか?」
「そこまでは知らん。好きにしろ」
そのあとは淡々とした説明で午前の授業が終わる。
落ち込んだ男子たちの中、幾人かの生徒がダンジョンへと立ち上がった。
そして当然、その中にはハヤテの姿もあった。