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迷宮学園

 ハヤテちゃん。


 お姉ちゃんね、もう駄目なんだ。

 だからハヤテちゃんは自由に生きて欲しい。

 それだけは許して貰えたから。


 だからね、ハヤテちゃん。

 お嫁さんになってあげるって約束は叶えられないんだ、ごめんね。

 でも、これだけは覚えておいて欲しいな。


 ハヤテちゃんは、女の子に優しくしてあげてね

 君は、きっと強い男の子になれるから



 □■□



「……夢か」


 ハヤテは目を覚ます。

 入学式での長い長い学園長の挨拶で居眠りしてしまっていた。ちらりと視線だけ動かせば周りの殆どが舟をこぐようなありさまで、それを壇上で見えているであろう学園長は気にするでもなく延々と中身の無い演説を繰り返している。


 迷宮学園ラビリンス。


 それは20年前から発生した異界の門を攻略する探索者を育成するための学園の一つ。一般人が通える学園の中で最も実績を上げている学園で、そして希望者の多さから試験の難易度も激高で有名な所であった。まあ、実技に重点が置かれている関係で、座学が壊滅なハヤテでも、ギリギリ滑り込むことができたのは幸運であり、そんな学園に通える事実に、ハヤテの頬も緩んでくる。


 -強くなる-


 この一点に関して言えば、この学園は最適である。浸食された領域の中に建てられた全寮制の学園。許可さえとればダンジョンの中に潜り放題で、座学の授業の単位すらもそこでの活動で代替えが出来てしまう。代わりに死亡率も抜きんでて高く、男子の卒業率は50%。大量の死亡者および退学者を出すことで非難も集中しているが、卒業生によるそれ以上の実績によって、力技で世論を封殺している。


 だからこそ彼はこの学園に入った

 もう記憶も薄れた姉替わりだった女性

 その彼女が通っていた学園で、彼女の成しえなかった探索者になってやろうと


 ただ、それだけの覚悟で彼はここにいる。


『では、新入生を歓迎しよう。ようこそ、迷宮学園ラビリンスへ!』



 □■□



 入学式が終われば各々教室へと入る。


 迷宮学園では厳密にはクラスという概念は薄い。一応は人数単位にクラスとして振り分けられるが、各個人の裁量で、学業と訓練に精を出すも、ただひたすら力を求めるも、怠惰に日々を過ごすのも自由である。ただ、様々な手段で最低限の単位を取り、年度が上がるときに強制される迷宮攻略に置いて、指定される実績を上げれば良いのだから。


「まだかな?楽しみだよなあ、おい」

「俺、どんなギフトが貰えるかなあ?」


 クラスメイト達ががやがやと話し込んでいる。そう、クラスでの数少ない共同イベント、それが入学初日に行われるギフトの授与である。そこを通らねば本当の意味での入学とならない。稀に……そう、本当に稀にギフトを受け取れない人物をそこでふるい分ける必要があるからだ。


「お待たせ。このクラスの順番が来たわよ。全員並んで移動っ!!」

「「「はいっ」」」


 教師の言葉に、一斉に返事をし廊下に出る。多少の雑談はあれど素直に移動するクラスメイト達の後方で、ハヤテは同級生たちを何と無しに観察する。男女全員が若く引き締まった身体をしている。筋肉達磨というわけではなく、スポーツマンのような身体で、肥満体の人物など居ない。それ位でなければ試験は突破できないのであるが、その中でも何人か目ぼしい人物を観察する。


 一人は一際鍛えた格闘技者のような男子。無駄のない動きと観察するハヤテに気付いたような反応に、今の彼ではおそらく勝てない相手だろうと判断する。

 一人は制服を着崩した男子。明らかに何か獲物でも探しているような雰囲気を見せる彼は、要注意人物だと判断する。

 一人は真っすぐに前を見る女子。何処か見覚えのあるような胸の大きい女子。浮ついた雰囲気も無く、何か明確な目的をもった様子が少しだけ気になった。

 そしてその女子の後ろを歩く男子。斑な茶髪に染めたその男子は、じっと前の女子の胸を凝視している。そんな彼に、猿のように盛るなら見えないところでやってほしいと意識から外す。


 そうしてクラスメイトを観察し、自分の実力が上の中、いやギリギリ上の下だと判定する。そして同時に、そんな力の差がダンジョンと言う世界でのレベルアップにより、あっさりと覆ってしまうという事実に心を引き締める。何故ならば、2年の最下位の落ちこぼれよりも、1年の主席の方が明確に弱いという事実は、探索者の養成学園では常識であると知っているからだ。


「よーし、じゃあ簡単に説明するぞ」


 そして訓練場へ移動し教師の説明が始まる。


「一人一人順番に隣の部屋へ移動する。そこに拘束されたゴブリンが用意されているから机の上のナイフで殺すだけだ。それでギフトの入手は終わりだ。後は中に居る先生に報告し、教室に戻れ。質問は?」

「はい。レアなギフトを手に入れたらどうなりますか?」

「教師が生徒のギフトを漏洩することはない。ただし、手に入れたギフトによっては一学期のダンジョンアタックへの制限が入ることはある。後衛向きのヒーラーやバッファーがそうだな。あとはまあ……何でもない」


 言葉を濁すが、それは無能力者であった場合だと全員が理解する。


「そうなりますと、ギフトは口外禁止ですか?」

「いや、自分の意思で口にする分には別に構わんぞ。そこらは自己責任だ。とはいえ、レアギフトが出た場合は黙っておくのを推奨する。最低限自衛する力を手に入れるまでは、上級生には目をつけられないほうが良い」

「でも、無理やり聞き出したり……」

「それは無い。やったら一発で退学だ。先に言っておくが学園のあらゆる場所には監視カメラがある。それはギフトの口外の強制や、殺し合いを監視するための物だ。監視を阻害する行為を行った者も、懲罰がある」


 はっきりと言う教師に、恐る恐ると女子の一人が問いかける。


「あの……もしかしてトイレやお風呂もですか?」

「例外はない。とはいえ、監視はAIがやっているから問題はないぞ。それと、あくまで違反の監視しかしていない。お前たちがクラスメイトとセックスしようが、女子や男子が売春しようが、露出癖のある奴が全裸で徘徊しようが感知しない。この学園では探索者として強くあれば全てが許される」


 それはつまりレイプもか?と誰もが思ったが問いかける勇気のあるものは居なかった。つまりは、覚悟の無いやつは今すぐ退学しろと、教師の彼女は言外に言っているのだと理解したが故に。


「それでは始めるぞ。前に居るお前から順番に行け」


 そしてそこで質問は締め切り、ギフトの授与が始まった。

 これからの探索者としての生き方を決める、最初の試練が。

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