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終わりに向かって

 クリスマス前日。


「失礼します」


 ハヤテはその日、生徒会長に呼び出されていた。心当たりはサキが生徒会の委員という位であるが、とりあえず呼び出されたからにはと生徒会室に訪問した彼を、見事な縦ロールと豊満な胸を持った会長が招き入れた。


「ごめんなさいね。明日はクリスマス会だから今日しか時間が無くて」

「いえ、ダンジョンアタックは切り上げてきましたから問題ありません」


 会長、神宮寺綾子は思う。オークまで5時間とは、かなり優秀な一年生だと。

 筋肉の魔王、ハヤテは思う。50階層でまた服を駄目にした自分はまだまだだと。


「ええと、それでお話なんですけど、貴方はウチのサキさんとお付き合いしていますよね?」

「パーティを組む約束はしますが、男女交際と言えるような行為はしていません」

『向こうもその気なんだから、ヤれば良いのにのう』


 悲しきすれ違いを気付きながら茶々を入れるアルの戯言を、ハヤテはきっちりスルーする。


「いえ、交際は構わないのよ。でも、お付き合いというと必ずその先があるじゃない?」

「結婚するまで清い交際というのもあると思いますが?……そういう関係になるかは別として」

「あははっ、そんな価値観古いわよ。好きあったらとりあえず性交して、身体の相性を確かめないと不幸じゃない?」

「そういう物ですか?」


 お堅いナリをして平気で性交などという言葉が飛び出してくることに意外に思いながらも、ハヤテは彼女の言わんとすることをかみ砕いていく。


「レベルアップの副作用……ですか?」

「そう、レベルのあがりすぎた探索者のセックスは麻薬よ。童貞と処女が高レベルになってからセックスをして、性器が使い物にならなくなるまで繋がってたって事件も稀にあるの」

『知らんかったな、ハヤテは知っておるか?』

(知るわけが無い)


 交尾を見たいという癖に必要なリスクを全く知らないアルに呆れるが、そもそもが種族の違うであろう彼女が人間の性に対する知識を持っている筈がないと思いなおす。そもそも知らないからこそ交尾を見せろと迫ってくるのだから。


「そういうわけで、大切な委員の為に私がひと肌脱ごうっていう訳なの」

「脱ぐ……って、そういうことですか」

『おおっ、あの娘に負けずとも劣らぬ発情臭!ヤるのじゃ、ハヤテっ!!』


 机の上に腰掛け、するりと制服を脱ぎ始める会長に、ハヤテは眉を顰めて、この生徒会長はアルの同類であろうと思う。初めて顔を合わせて即セックスというエロ漫画顔負けの展開に一歩下がるハヤテに、会長は笑う。


「ふふふっ、貴方が女とのセックス程度で尻込みするのかしら?」

「生徒会長と性行為をする必要性がありません」

「だ・か・ら、高レベル探索者とのセックスを知っておきなさいってこと。明日のクリスマスで告白されて、ベッドインとなったらどうするの?そこで彼女に情けない姿を見せるのかしら?」

「彼女とはそういう関係ではありません」

『いや、あの娘は押し倒す気満々じゃと思うがなあ』


 中々その気にならないハヤテに、会長が苦笑しつつ乱れた服を直す。


「まあ、いいわ。その態度から童貞だってのは良くわかったし」

「……悪かったな」

「とりあえずペナルティとして、私が味見するまでは彼女との性交は禁止ね。次期生徒会長を予定している彼女を壊されたら困ってしまうから」

『失礼な。魔筋を発動しなければ壊したりせぬわっ!!多分』

(多分じゃねえよ)


 そしてハヤテは解放される。

 何のために呼び出されたのかと力の抜ける彼だったが、途中、人気の無い小道を歩いているところで木陰から声がかけられた。


「失礼いたします。お話をよろしいでしょうか?」



 □■□



 その初老の男性は一言で言えば『執事』であった。

 スーツに白髪の増えた髪、整えられた髭にと、名前が『セバスチャン』だと言われれば納得してしまいそうなほどに執事であった。


「……何か?」

『セバスじゃ、セバスチャンじゃ!!』


 謎に興奮するアルを無視し、問い返すハヤテに、男性は深く頭を下げる。


「良ければ、私の独り言に付き合って頂けたらと」

「独り言……ですか」

「えぇ」


 訳の分からぬやり取りだが、それに意味があるだろうと彼は考える。その独り言が身元を特定できない『誰か』の、許可されていない裏情報であったりだとか。そう考えて、ハヤテにはその対象がサキにしかないのだと理解できた。


「私の仕える家のお嬢様なのですが、嫁ぎ先が既に決まっておりまして」

『ん?あの発情女のことかの?』

(多分な)

「この学園の卒業生の、Aランク冒険者……彼らがSランクとなった時に正式に相手方に嫁ぐことで契約がなされました」


 少しだけショックであった。彼女に婚姻や性行為を求めていたわけでは無いが、卒業までは探索者の卵としての友人として学園生活を送れるのだと思っていたのだから。


『いや、ロクに授業も出ずにダンジョンアタックしているのは学園生活とは言わん』


 正しくは、学園生活を感じられる存在、だ。意味も無いと切り捨てかねないホームルームや授業も、アルに要求され、サキに挨拶されて会話して、それが悪くは無いと思っていた自分をここでようやく自覚した。


「私の見立てでは、お嬢様の卒業までにはSランクは確実。早ければ1年程で到達できそうなペースです。そしてこのことはお嬢様も存しており、ダンジョン攻略のパーティメンバーとして、卒業前に中退することも視野に入っております」

「中退、か」

「あぁ、年を取ると独り言が長くなっていけません。お嬢様が旦那様の庇護下にあるからこそ、望まぬ婚姻も拒めないという現実が歯痒いですなあ。その前に、お嬢様がこの学園の、探索者のルールに従い、合法的に独立できてしまえば話が早いのですが」


 ニコリと笑って、執事は頭を下げる。


「私の独り言に付き合って頂き、ありがとうございます。そうそう、年明けからは学外のダンジョンに行くことも可能だそうですよ。貴方も、お嬢様もその基準のレベルにあることを、ここの生徒会に確認をしておきましたので」


 そして去っていく彼を見送って、ハヤテは静かに考え込む。

 自分は、どうしたいのかと。


『面白いイベントじゃのう。さてさて、ハヤテは如何する?』

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