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50階層を超えしもの

「40階層突破まで4時間、及第点かな?」

「いや、お主異常じゃ。妾の知る限り、大体のパーティが20階層行く前に一度は野営するぞ」


 駆け抜けるようにして到着した40階層。タイムも随分と縮まり、いよいよとその先へと進む決意をする。次なる階層はアルの担当。恐らくは力押しの階層だろうと考えて、扉を潜る。


「ん?何だ?」


 扉を潜った先には広大な空間。上に空が、横に地平線が見える広大な荒野のフィールドにでて、思わず足を止めてしまう。


「ふははははははっ、嵌りおったなハヤテよ!!この階層は10階層ぶち抜きのモンスターハウスじゃ!!10階層分のポイントで配置したモンスター軍団の猛攻と、ボスのグリフォンによる一撃離脱戦法。なあに、妾たちのプライドを傷つけてくれたお礼、死なぬ程度に受け取るがいいわっ!!……あ、死ぬのは駄目じゃぞ、それは妾も困る」


 高笑いし、反り返った勢いでひっくり返りながらアルが言う。そんなギャグのようなセリフに苦笑しつつ、ハヤテは右手にスレッジハンマーを、左手にバールのようなものを構えながら不敵に笑う。


「こういうストレスのたまらない大暴れは大好物だ!!」


 そうして誰も知らない怪獣大決戦が始まった。



 □■□



「おおおおおおおおおっ!!」


 『それ』が唸る。

 筋肉の鎧に身を包み、顔にホッケーマスク、首に髑髏の首飾り、そして股間にブーメランパンツ。両の手にはスレッジハンマーとバールのようなもの。それ以外の衣服は一切身に着けず、炎と風と、無数の牙と爪の中、それは世界を蹂躙していた。


 ブォンッ!!


 右手が振られれば無数の血の華が咲いた。それぞれがC級ダンジョンでボスとなれるモンスターたち。それが抵抗する余地も無く無惨に内臓をぶちまけていく。


 ドグォンッ!!


 左手が叩きつけられれば、地面に潰されたモンスターが血の染みとなった。防御や回避など考えるまでもない。目の前の悪夢を殺すために群がったモンスターたちに避ける場所も逃げる先もなく、ただただ無惨に殺されていった。


「ふはぁっ!!」


 何百匹が殺されただろうか?『それ』が息継ぎをしたその瞬間を待って振るう爪や牙はその筋肉に突き刺さることも出来ず弾かれていく。そして仲間を巻き込んで炸裂する無数の魔法たちも、その身体に届いたと思った瞬間に弾かれるように消滅する。


 それは過去に神滅の魔王とよばれた悪夢の再来だった。


「キュキィィィィィィ……ッ!!」


 タイミングを見て上空から突撃するボスであるグリフォンの突撃は、その頭を無造作に受け止められた。そのまま首に手を回され、ぐるりと首をねじ切られて殺されれば、残るモンスターたちも狂乱する。逃げることは許されていない彼らはそのまま無惨に蹂躙され続け、そして全てが『それ』に屠られた。


「ふぅ。大分効率が上がってきたな」


 そして『それ』は口を開く。それまでに行われていた大虐殺が大したものでもないように。ちょっと疲れたなと言う様子で、周りに残された魔石に髑髏の首飾りを向けると、その小さな髑髏がカタカタを歯を鳴らすのに合わせ、魔石が雪崩を打つように髑髏の首の中に飛び込んでいく。それはまるで魔石を通してモンスターの魂を喰っているかのように見え、先の蹂躙劇と合わせそれはそれは恐ろしい光景だった。


「のう、ちょっと酷いとは思わぬか?モンスターハウスを蹂躙する探索者とか視聴者からクレームが入るのじゃ」

「折角手に入れたアイテムボックスのデザインが酷いことにクレームを入れて良いか?」

「不懐の首狩り族の無限箱は安かったのじゃ!干し首バージョンと髑髏バージョンで悩みに悩んで、骨の方が格好いいと思ってこっちにしたのじゃ!ちなみに干し首の方も何故か在庫が残っておるから追加するか?」

「いらんっ!!」


 アルの提案を一蹴し、集まった魔石を確認しながら先へ進む。魔石をカードに変換し、予備の学生服を取り出し身に着けて、出口へのワープポイントへと足を向ける。


「初回は酷かったのう。パンツ一丁で戻ってきたお主が見つからんでよかったの」

「そういう時の為に出口に貸し出しのシーツが置いてあるんだよ。予備の制服も魔石交換できるから良いが、いっそ上着みたいに50階層に入る前に脱ぐかなあ?」

「そういう性癖は否定せぬが、服を破られぬよう精進する方が良くはないか?」

「あぁ、そうだな忘れてた。被弾前提じゃあ成長も無いか」


 至極真っ当なアルの指摘に、ハヤテも自身の考えを反省する。そうして数回目のモンスターハウス攻略も終わり、これから毎日のようにモンスター達は虐殺されることとなる。それはまるで魔王への哀れな生贄のように。


「そういえば、しばらく発情女を見ないのう。ハヤテよ、交尾はまだか?」

「本当に失礼だぞ、お前」



 □■□



 数日後。


「おはようございます」

「あぁ、おはよう」


 朝礼前の教室。そこへ久しぶりにサキが入ってくる。およそ一週間と少し、酷い風邪でもひいたのかとハヤテは珍しく彼の方から話題を振る。


「身体、大丈夫なのか?」

「風邪とかじゃないですよ」


 心配そうに問いかければサキは微笑みながら訂正する。


「生徒会長の伝手で、元学園生の探索者のパーティに参加させてもらったんです。一週間ずっと一緒していたんですけど、流石に疲れてしまって少しお休みを頂いていました」

「へぇ、生徒会に所属してるとそういうメリットもあるのか」

「ええ、来賓の方のお相手とか授業を休んでの呼び出しが多いので」


 生徒会に入るというのは雑事を押し付けられるだけではないようだ。高レベルパーティに本場のダンジョン攻略に参加させて貰うという大きなメリットに、少しだけ羨ましくなる。


「こっちもソロだと色々と大変だと分かってきたな。背後から近づかれると(服を守るのが)中々厳しい」

「そうですよね。私も中々慣れなくて」


 ハヤテも50階層のアタックを続けているが、学生服は毎回布切れとなる。無数のモンスター相手に360度から襲い掛かられて生きているのがそもそも異常なのであるが、彼は自身と同じ魔筋とギフトを持っていれば、誰でも出来ることだろうと考えている。俺様チートと与えられた力で驕っていれば、遅くともトラップ階層で命を失うか、心を折られているだろうとは気付かぬままに。


「お互い、がんばらないとな」

「えぇ……そうですね」


 ハヤテの言葉に頷きかけたサキがふと気付いたように息を呑む。そして恐る恐ると言った風で、軽くうつむきながらハヤテへと問いかけた。


「ハヤテ君」

「ん?」

「もしパーティを組む場合、パートナーには何を求めますか?」

「ん?まあ、ダンジョンで自身の身を守れることと、気が合う事かな?」


 サキはハヤテのレベルは分からない、しかし2年生よりも遥かに強いことは共にダンジョンに入って実感している。だからこそ、彼の背を守るだけの資格を本人の口から聞いてみたかったのだろう。


「そうですか。私も強くなりますので、また一緒にダンジョンに潜ってもらえますか?」

「いや、誘ってくれるなら何時でも良いが」

「それなら、お互い頑張りましょう、ハヤテ君」

「あぁ、無理をして怪我をしないようにな」


 目をキラキラさせながら宣言するサキに、ハヤテは優しく釘をさす。

 余程良い先輩探索者を紹介してもらったんだなあと羨ましく思いながら。


『もうちょっと気の利いた言葉は投げられるのかのう?だからお主は童貞なのじゃぞ』

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