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ランチと筋肉

『領域内は治外法権とは、面白い法を作ったのものだ』


 授業を呆けて聞くハヤテにアルが感心したように呟いている。授業のカリキュラムを勝手に読み-アルが物に干渉することが出来るのをそれで知った-興味のある授業には出るようにハヤテに懇願して出席した授業。何が面白いのか全く分からないハヤテはただひたすらに睡魔と戦っていた。


『モンスターとはいえ生命体の殺害、そして武器の持ち込みを無理やりに合法化させたわけか。裏では色々とやってそうじゃのう。出入りを国民番号で厳重に管理することで犯罪者の逃げ込みも防いでいる、と。ダンジョンの数が各国に十分にあるから出来る制度じゃな』


 授業が終わっても感心したように語り続けるアルに、ハヤテは昼を何処で食べてからダンジョンに向かおうかと考えていると、隣に座っていた女子が慌てたように立ち上がったことで、意識をそちらに向ける。


「ちょっと、お弁当押し付けられても困るわよ!」

「だって、私ら二人に先輩が奢ってくれるんだもん。彼、競争率3位なんだからチャンスは逃せないの」

「でも、3人分を私一人に押し付けられても」


 見れば、その女子の机には3人分の弁当箱。探索者を育てる迷宮学園とあって、そのボリュームは多く、見るからに細めの女子-そこでサキと言う名前を思い出す-では食べきれないだろうとハヤテは思う。


「そこの男子に食べてもらえば?」

「め、迷惑でしょ」

「女子とお昼を食べるのを断る男なんて居ないわよ。そうよね、ハヤテ君?」


 と、話が自分の方へと向いてハヤテは少し考える。時間をかけて昼をご馳走になるか、とっとと飯を食べてダンジョンに飛び込むか、後半へと思考が傾きかけたところで、サキの相手の女子が言う。


「今日の弁当、予約抽選の特弁なんだ。本当にもったいないから貰ってよ」

「喜んで!」

「んじゃ、あとよろしくー」


 予約抽選という特別感満載の釣りにあっさりと引っかかったハヤテが頷けば、その女子はあっさりと手を振りながら教室を出ていってしまう。残されたハヤテとサキは、少しだけ見つめあうと、サキの方から提案をした。


「私も午後から生徒会ですから、休憩室で食事にしませんか?お昼は誰も使っていないんで、ゆっくり食事ができますよ」

「悪いな。ご馳走になる」


 がっちりと弁当に視線が向くハヤテに苦笑しながら、二人は並んで教室を出ていく。

 それを見送る女子たちと一部男子たちはそんな二人を小さく笑い、そして呆れたようにアルがハヤテの頭の上で呟いていた。


『このあからさまな演技に気付かんのか、こやつは』



 □■□



「ふむ」

「大分馴染んできたようじゃな、安定しておる」


 ダンジョン10階層、ボス部屋前。

 ハヤテはアルに教えられた魔筋の力を確認していた。権能を身体に埋め込んでマナを流し込んで己が物とする。アルが分析するには、ハヤテのギフトは外部からの異能の力を遮断するが、自ら内に受け入れた物には干渉出来ないのだという。そうでなければモンスターを倒して成長は出来ないとドヤ顔で説明し、そして同時に深刻な表情で付け加えていた。


-知らず食事に毒を盛られたら、あっさり死ぬかもしれぬ-と。


 その言葉を心に刻みながら、いまいち効果の実感の無い自身のギフトに疑問を持ちつつも、魔筋の力の発動を続けていく。


「……しかしな」

「なんじゃ?」

「この姿は……正直無いわ」


 心底嫌そうに言うハヤテの姿は見違えていた。顔にはホッケーマスク、上半身は裸で、下半身のズボンはパツンパツンで今にも破れそうになっている。それもこれも異常に肥大化した筋肉のせいで、彼の胸囲は通常の二倍ほどにまでなっていた。そんなボディビルダーが子供に見えるような姿であっても、身体の動きは一切阻害せず、むしろ動きやすくなっていることが、その力の異常さを示していた。


「格好いいじゃろ?」

「これじゃモンスターにしか見えねえだろうが!」

「お主が成長すれば物理にはほぼ無敵になる!それが魔王の権能の力よ!!」

「話を逸らすな。勇者相手に使わなかったんだろ?」

「マナには防御力皆無になるのじゃ。故に、勇者相手にリスクが高すぎて使わんかったのじゃ……見た目が悪いと言った幹部もいたが、多分気のせいじゃ。筋肉は決して裏切らないと漫画にも書いてあった!」


 ぺちぺちと腹筋のシックスパックを叩き感心しながらアルは言う。


「まあ良い。じゃあ行くぞ」

「オーク位なら素手で十分じゃ。お主の力を見せてみよ」


 言いあいながらボス部屋へと入っていく。

 そして、扉が閉まると同時に湧き出てくるオーク。しかし、そのオークはハヤテを一目見ると、明らかに動揺した表情を見せた後、肩膝をついて頭を下げる。


「……おい」

「なんじゃろうなあ?」

『ブモっ、ブモモっ!!』

「ふむ。その見事な筋肉を前にしては、敗北を認めるしかない?」

『ブーブモモ』

「以前の殴りあった青春の日々は忘れない?自分も強く鍛えなおすから待っていて欲しい?」

『ブモっ!!』


 言うだけ言って消えていくオーク。そのギャグとしか思えぬやり取りを見送って、最後にハヤテは突っ込んだ。


「こいつ、同一個体かよ!!」

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