迷宮のある世界
それは20年前。
突如世界中に現れた迷宮への入口は、少しづつ世界を侵食していった。
後に領域と呼ばれるその空間、そこではモンスターが我が物のように闊歩し、迷い込んだ人を殺害し、捕食した。しかし同時に、その空間でモンスターを殺した人は、身体能力の強化とギフトと呼ばれる特殊能力をその手に入れた。
モンスターは領域の外には出れず
モンスターを倒せば領域の浸食は止まり
モンスターの残す石は、環境破壊を一切行わないクリーンエネルギーだった
そして自然と領域に踏み込みダンジョンに潜ることを生業とする人々が現れ
その中でも人類を超越した先駆者によって国々の力関係は変わっていった
しかし力なき人々よ安心して欲しい
彼らは領域内でしかギフトは使えず、その外では凶悪な身体能力を持つだけの人間であるからだ
何度かの混乱の後、日本でもテーザー銃を警官たちが持つようになって少し。
彼らは探索者と呼ばれ、子供たちのあこがれの職業となった。
そして今。
日本でも幾つも立ち上がった探索者養成学園の一つ。
迷宮学園ラビリンスにて、この物語は始まる。
□■□
こことはちがう、いつか、どこか。
「い~や~じゃ~」
人類未踏のその暗闇の中、可憐な声が空気を震わせる。
「姉さん。ギリギリ黒字程度の収支だって、馬鹿にされて怒ってたじゃない」
「でも、折角作った階層を破棄するなんて嫌じゃ!!」
「誰も来ない階層にコストかけるのは無駄じゃない。そりゃ私も調子に乗って作ったのは否定しないけど」
二人は見た目そっくりな少女。長髪に姫カット、和服を身に着けた二人は、姉は黒、妹は白と、色のみが対照的な二人であった。そしてその姉の方は床に寝転がりジタバタと手足を振り回していた。それはもう、漫画の世界の駄々っ子のように。
「それでも嫌じゃ!!鉄姫の奴が何と言ったか覚えておるか!?『檻に閉じ込められた自称最強様は楽でいいですわねえ』じゃぞ!!階層破棄なぞしたら、あやつが嫌らしい顔で笑うのが目に見えておる!!」
「とはいっても、このままじゃあ猶予期間が終わったら詰みますよ?」
「ぐっ……ま、まだ二年あるのじゃ。こ、今度の奴らの中にお宝がおるかもしれんじゃろ?」
そして立ち上がる姉。そんな彼女をじっと見つめてから妹は大きくため息をつく。
「確かに階層破棄したら上位は難しいですからね」
「そうじゃろ?妾たちは勝つためにここに居るんじゃからな?」
「……一年待って、だめなら姉さんが作った50階層のアレから破棄しますからね」
「ぐ、う、仕方ないのじゃ」
泣く泣く頷く姉。そうして暫く騒いだのちに彼女らはゆっくりと目を閉じる。
年に一度、その日を待ち望みながら。
「『王』は目指さぬ。せめて爵位を持てる可能性のあるものが欲しいのう」
「えぇ、そのための私たちですからね」