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使者

 グリフィン騎士団との戦闘から数日後、俺は聖都デイオンの様子についてエメルスから報告を受けていた。


「黒い痣の呪いはかなり広まっています。既に聖都各地の教会で、呪いの患者とそれを治せない神官の言い争いが発生しています。そして先程ついにソード=デイオン大聖堂に患者達が集団で押し寄せました」

「もう大聖堂に押し寄せるほど不満を爆発させているのか。良い傾向だ」

 聖都に住んでいてる人々でも、アデリア教への信仰心が高い者ばかりではないということか。

「聖都は今や世界の中心で、商人達も数多く集まる。彼らが呪いを世界中にばら撒いてくれるだろう。それと聖都に行かなかったグリフィン騎士団員が、戦闘から三日後にここから一番近い都市ラムダグに到着したのを確認した。こちらからも呪いは広まるだろう」

「奴らが黒光病ではなく呪いだと気付くまでどれぐらいかかるでしょうか?」

「そうだな・・・黒光病は身体が徐々に衰弱して半年程で死に至る病気だ。呪いにかかった者は二か月もすれば自分が全く衰弱していないことに違和感を感じるだろう。しかしアデリア教会の連中は衰弱していくグリフィン騎士団員を見ているせいで、気付くのが更に遅れるかもしれない」

「二か月ですか・・・」

「それだけあれば東の森の新しい罠も完成するし、マングー大森林中の魔獣を服従させることができる。十分な時間だ」

「新しい罠? それはどのような罠なのですか?」

「もはや呪いをばら撒く必要はないからな。次は森に入った者に直接被害を与える罠にする予定だ」

 アデリア教国も次は大軍で攻めてくる可能性がある。ならばその数を減らす罠を作らなければならない。

 さて、どんな罠にするか・・・


「ユリシーズ様?」

「ん、何だ?」

「いえ、少しぼうっとされていたようなので・・・もしかしてお疲れですか?」

「いや、問題ない」

 どんな罠を作るか考えていただけで、疲れてはいない。エメルスにはそんな風に見えたのか。

「本当ですか? ユリシーズ様は魔獣を服従させるために毎夜出かけていて、あまりお眠りになっていないようですが」

「私に睡眠は必要ない。大丈夫だ」

「そんな! ちゃんとお休みになって下さい! もしユリシーズ様が倒れたりしたら私は・・・」

 エメルスが不安そうにこちらを見つめる。確かに俺が倒れている時にアデリア教国が攻めてくればサフィーラ教団は全滅するし、エメルスが心配するのも分かる。

「分かった、今晩は寝ることにする」

 俺には本当に睡眠は必要ないのだが、エメルスを安心させるためにそう言う。

「私にできることがあれば何でもお申し付け下さい。ユリシーズ様の負担を少しでも減らしたいのです」

「引き続き聖都の情報収集を頼む。それ以外は特にないな」

「・・・そうですか。分かりました」

 エメルスは落胆しているように見える。仕事が増えなくて喜ぶところだと思うのだが。


 仕方ない、今晩はエメルスが寝てから出発し、起きる前に帰ってこよう。




 数日後、二人の男が森の外に現れた。

 アデリア教国の人間のようだが、話し合いを申し込む目印の白い旗を持っている。

 とりあえず話を聞いてみることにした。


「どうもこんにちは。私はアデリア教国議会事務次官グルンザブと申します」

 一人はいかにも役人といった格好の男だ。アデリア教国の政治を司るアデリア教国議会の事務次官なら役人の中ではかなり上の人物だろう。

 もう一人は魔術師で、彼よりもかなり後方にいて、話し合いに参加する気はないらしい。護衛というよりは転送魔法による送迎役だろう。

「私はサフィーラ教大司教ユリシーズです。何か用ですか?」

「アデリア教国議会の決定を伝えに来ました」

 俺は差し出された紙を受け取り、そこに書かれた文章を読んだ。

「ダークエルフと獣人の引き渡し要求ですか。意外ですね、私はすぐに邪神討伐の軍隊が来ると思っていたのですが」

「こちらにも事情がありましてね・・・」

 グルンザブはごまかしたが、聖都に呪いが蔓延している状況では派兵どころではないだろう。

 当然こんな要求に従う義理はないが、それらしい理由を付けてやるか。

「実は今この森にいる者達は私以外全員黒光病にかかっていましてね。しかも何故か従来の治癒魔法では治せないのですよ。それでも彼らを引き取りますか?」

「やはりこの森が原因か・・・」

 グルンザブが小声で呟く。

「事情は分かりました。議会に報告しますので、取り敢えず引き渡し要求は保留とします」

 アデリア教国の連中もこんな要求が通るとは最初から思っていないだろう。奴らの真の目的は、こちらの状況確認と黒光病が広まった原因の究明だ。あっさり引き渡し要求を保留としたことからも明白だ。


「ところで、何故あなたは黒光病にかかっていないのですか?」

「サフィーラ教大司教の私にはサフィーラ様のご加護がありますからね。サフィーラ様の教徒になったダークエルフと獣人達もいずれ治るでしょう」

「そうですか。羨ましいですな」

 グルンザブの態度は奇妙なものだった。彼らにとって邪神であるサフィーラに対する嫌悪感がまるで無い。それを不思議に思った俺は素直に聞いてみることにした。

「何故あなたはアデリア教国が邪神と呼ぶサフィーラ様に対して嫌悪感が無いのですか?」

「そう見えましたか。しかしそれは当然のことですよ」

 グルンザブは後方をチラリと見た。そして魔術師がこちらの声が聞こえない位置にいると確認すると話しを続けた。

「まず、私個人がサフィーラ様から何の被害も受けていません。そしてサフィーラ様は戦争の最初に聖女に殺されたので、アデリア教国としても何の被害も受けていません。それに聖女がアデリア様から天啓を受け取るまで、アデリア教国とマグナス王国は友好国だったのです。私の人生において長い間友好的だった相手を、いきなり邪神だから嫌えと言われても無理ですよ」

「なるほど・・・」

 グルンザブは盲目的にアデリア教に従う人間ではなく、自分の考えを持ち、まともな感性を持つ人物のようだ。

「ついでに言うと、聖都にいたマグナス王国の大使と私は友人でしてね。サフィーラ様の良いところも沢山聞きましたよ」

「そんな繋がりまであったのですか」

「それが今やこんなことに・・・この世は何があるか分かりませんな」

 グルンザブは苦笑いした。




 その後、グルンザブは挨拶して聖都に帰っていった。

 アデリア教国議会事務次官グルンザブ、覚えておいて損はなさそうだ。

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