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 私の名はサフィーラ。神も上級神となれば睡眠が必要なくなるらしいけど、私には必要だ。

 だだし、目覚めの良さには自信がある。




 サフィーラ教団結成の翌日、ユリシーズは朝から教団の主要メンバーを集めて指示を出していた。

「今日は川の東の森で食料探しと、川の西の森で拠点作りを行う。人員の配置は君達に任せる」

「了解しました」

 次元収納魔法の中の食料も無限ではない。食料確保は最重要課題だ。

「拠点作りのための道具はサフィーラ様が用意して下さった。あれを使うがよい」

 ユリシーズは事前に次元収納魔法の中から出しておいた斧やノコギリなどを指差した。

「夕刻には食料探しの者も川を渡り、明日以降は川の東の森は立ち入り禁止だ」

「それは何故ですか?」

「敵の襲来に備えて罠を作っておく。罠の制作は私がやる」

 今いるのはエルネスト西端にあるマングー大森林の東端だ。北と南は山脈なので、敵であるアデリア教国の奴隷狩り部隊が来るなら東からということになる。

「話は以上だ。作業に取り掛かってくれ」

「ははっ!」




 皆がそれぞれの作業に取り掛かり、私とユリシーズがその場に取り残された。彼らを手伝いたい気持ちはあるけど、神と大司教という立場から、あまり威厳を失うことは出来ない。


「今更だけど、何故ここにダークエルフと獣人が一緒にいるの? バーチ王国はともかく、ギラバイ王国はここからかなり遠いのに」

「バーチ王国とギラバイ王国はほぼ同時にアデリア教国の侵攻を受けましたが、ギラバイ王国の方が先に滅んだのです。そして、多くのダークエルフが同盟国のバーチ王国に逃げ延びました」

「その後、バーチ王国が滅ぼされて今に至るというわけね?」

「その通りです。ダークエルフの戦力を取り込んだバーチ王国はその後一年近く粘りましたが、結局は滅びを回避できませんでした」

 ダークエルフと獣人達がただの同盟者よりも絆が深そうに見えたのは、共に戦った戦友であり、逃亡してここまで苦楽を共にしてきたからなのだろう。


「もう一つ聞きたいことがあるわ。何故、マグナス王国の人々は邪教徒として全員皆殺しにされたの?」

 マグナス王国はだだ国が滅ぼされだけではない。改宗も認められず、邪教徒として皆殺しにされたのだ。

「それまでアデリア教国は滅ぼした国の人々を改宗させて教徒とすることで勢力を伸ばしてきた。なのにマグナス王国民は皆殺しにされた・・・私は自分が聖女と一騎討ちする前、もし私が負けたら降伏して改宗するようマグナス王に命令したわ。なのに何故、降伏と改宗が認められなかったの?」

「残念ながら私にも分かりません。マグナス王は自ら降伏と改宗を聖女に申し入れたそうですが、その場で聖女に殺されたそうです」

「そんな・・・」

「その後、ギラバイ王国とバーチ王国の人々も改宗が認められず奴隷にされたことを見ると、アデリア教国は教徒を増やすより優先することがあったのだと思われます」

「アデリア教国が教徒を増やすより優先すること・・・」

 宗教国家にとっての最優先事項は、神の教えに従い人々を導くことと、神の教えを広め教徒を増やすことのはずだ。

 そのアデリア教国が教徒獲得より優先することなんて、いくら考えても思いつかなかった。




 拠点作りは順調に進み、数日後には教団の人々全員分の家が完成した。

 魔法が得意なダークエルフと、魔法は使えないけど身体能力に優れる獣人の組み合わせは優秀で、拠点作りは私が思っていたよりスムーズに進んだ。


 その拠点作りが一段落したタイミングで、数人の獣人が私とユリシーズに話しがあると訪ねてきた。

「我々に森を出る許可を頂きたい」

「森を出て何をするつもりかね?」

「仲間を探し出してここへ導きたいのです」

「我々なら仲間が逃げた先や隠れている場所も見当がつきます」

 彼らの仲間を思う気持ちは分かるが、この森を出ればアデリア教国の奴隷狩り部隊に見つかる恐れがある。かなり危険な行為だ。

「分かった。許可する」

 しかしユリシーズはあっさり許可を出した。

「ありがとうございます! 必ず仲間を連れて帰ってきます!」

「うむ、期待している。仲間のために自分の危険を顧みない勇気ある君達に、サフィーラ様より賜り物がある」

 ユリシーズは次元収納魔法の中から人数分のネックレスを取り出した。

「これは?」

「首に掛けてみたまえ」

 一人の獣人が恐る恐る首に掛けると、彼の姿が人間へと変わった。

「こ、これは!?」

「見ての通りだ。首に掛ければ見た目が人間になり、外すと元に戻る。人間の姿ならアデリア教国の兵士に見つかっても問題はない」

「確かにこれがあれば人間の目を気にせずに仲間を探せる! すばらしい!」

「それだけではない。このネックレスを引きちぎれば、持ち主がこの森に転送される仕組みになっている。何かあった時でも君達が無事に帰ってこられるように、サフィーラ様が願いを込めたのだ」

「おお、我々にそんな配慮まで・・・ありがとうございます!」

 また何もしていないのに感謝されてしまった。




 彼らが出発の準備を終えると、ユリシーズは川の対岸を指差した。

「あの一際高い木の横にある獣道には罠が作られていない。あそこから森に出入りするとよい」

「了解しました」

 ユリシーズがこちらをジッと見る。これが私に話せという合図なのは覚えた。

「皆、無事に帰ってきて下さい」

「はっ! それでは、行ってきます!」

 彼らは頭を下げた後、森の外へと向かっていった。




「彼らは大丈夫かしら?」

「あのネックレスがある限り、仲間を見つけるまでは問題ないでしょう。見つけてからここまで連れてくるのはかなり危険が伴うでしょうが」

「そうね・・・」

「むしろ、危険なのはこちらかもしれません」

「え?」

「アデリア教国の奴隷狩り部隊がこちらに向かっています」

「!!!」

 驚きのあまり一瞬言葉を失う。

「落ち着いて下さい。敵がここに到着するまでには、まだ数日あります」

「でも、この森にいることは気付かれたのよね?」

「数百人が移動した痕跡を発見するなど、奴隷狩り部隊からすれば難しいことではありません。移動した方角からこの森にいると特定したようです」

「どうするの?」

「もちろん迎え撃ちます。それ以外に選択肢はありませんから」

 ユリシーズは久々にあの胡散臭い笑顔を浮かべた。


「私にいい考えがあります」

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