秘密
夜になり皆が眠りにつく頃、サフィーラも眠たそうな様子を見せた。神にも睡眠が必要なのか。
流石に神を地べたに寝かすわけにはいかない。俺は次元収納魔法を使い、その中からベットを取り出す。
この次元収納魔法は別次元に空間を作り、そこに物を入れておける便利な魔法だ。その空間の広さは作った時の魔力の量に比例する。
「サフィーラ様、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
サフィーラはベットに腰掛けるが、寝ようとはせずにこちらを見た。
「ユリシーズ、あの魔獣達を操った魔法は何なの? 私はあんな魔法、見たことも聞いたこともないわ」
「ああ、あれは私が暇潰しに開発した魔法です」
「暇潰し?」
「ええ、暇潰しです。まさか私も役に立つ時がくるとは思いませんでしたよ」
これは本当だ。自分の年齢を数えることすら面倒なぐらい長く生きていると、これぐらいの暇潰しがなくては退屈で仕方ない。
「神を襲う不届き者がいるとは思いませんが、一応こちらの魔獣をサフィーラ様の護衛に就けます」
俺が合図すると、森の中から三頭の魔獣が現れた。
「これで万が一にもサフィーラ様が襲われる心配はありません」
「これ、この魔獣達に襲われない?」
「神に対して絶対服従するように躾けているので大丈夫です」
「それ、操るというより洗脳じゃない?」
「いくら私でもあれだけ大量の魔獣を洗脳するなんて不可能ですよ。魔獣を操り、誰がボスか認識させただけです」
「まあ、とんでもない魔法だということに変わりはないわね・・・」
サフィーラはベットに寝転がると目を閉じた。
「今日はありがとう。おやすみ、ユリシーズ」
「はい、おやすみなさいませ」
天界から召喚した時は不満顔だったのに、お礼を言われるとは思わなかった。
どうやら今日一日でサフィーラの信頼も勝ち得たようだ。
サフィーラの元を離れ歩いていると、誰かが俺に近付いてきた。
「誰だ?」
「エメルスと申します。昼間は私と仲間達を助けていただきありがとうございます」
確か魔獣を服従させた時にいたダークエルフの女だ。第二王子であるギャンシーを呼び捨てにしていたということは、ダークエルフの中では地位の高い人物かもしれない。
「礼を言いに来ただけではないな? 何の用かね?」
「単刀直入にお聞きします。何故ユリシーズ様は実力を隠されているのですか?」
「意味が分からんな。何の事だ?」
「魔獣を服従させた時、女神からは何の力も感じず、ユリシーズ様からは魔力の放出を感じ取りました。魔獣を服従させたのはユリシーズ様なのでしょう?」
魔獣を服従させる魔法を使うのと同時に魔力の放出を隠蔽する魔法も使っていたのに、まさか見破る者がいるとはな。甘く見過ぎていたか。
「仲間の病気や怪我を治したところは見ていませんが、それも女神ではなくユリシーズ様が治したのではありませんか?」
「だとしたら、どうだと言うのだ?」
「我々が真に感謝すべきはユリシーズ様で、我々はアデリア教国が邪神と呼ぶ者の教徒になるというリスクを負う必要がなくなります」
「なるほどな。だが君は一つ勘違いをしている。サフィーラ様が君達を救うと決めたから、私はそれを手伝っただけだ。私一人なら君達に関わっていない。それでもサフィーラ教の教徒になるのは嫌かね?」
「我々はアデリア教国に追われる身ですが、邪神と行動を共にすれば追跡の執拗さは増し、生き残る確率は減ります。そんなリスクは避けれるなら避けるべきです」
「そうか。ならば死ね」
俺は防音魔法を使うと同時に拘束魔法でエメルスを捕らえた。
「くっ!」
空気が縄のように絡まり、エメルスは地面に転がった。
「サフィーラ様の信仰集めを邪魔する者は消えてもらう。今から貴様を魔獣に襲わせる。貴様にサフィーラ様への信仰心が無かったから魔獣に襲われたと言えば、貴様の仲間達も納得するだろう」
俺の隠蔽魔法を見破るほど優秀な者を殺すのは惜しいが、俺の邪魔をするなら仕方がない。
「ああ、大声を出しても防音魔法を使ったから無駄だぞ。それではさらばだ」
「お待ちください! 私と仲間達を救ってくれたユリシーズ様に感謝しているのは本当なのです! その恩を返すためにもユリシーズ様に協力させてください!」
「命乞いとは見苦しいな。サフィーラ教の教徒になるのは嫌だと言ったではないか」
「仲間達にリスクを負わすのは心苦しいですが、ユリシーズ様に救われた命です。それに女神が何もしていないと私が話さなければ、仲間達はこのまま教徒で居続けるでしょう」
「つまり仲間には真実を話さず、私に協力するということか?」
「はい、最初からそのつもりです。仲間に話す気なら、ユリシーズ様と二人きりで会ったりはしません」
助かるために噓をついている様には見えない。取り敢えず拘束を解いてやった。
「私に協力したいのなら、何故最初から素直にそう言わなかった?」
「ユリシーズ様が実力を隠してまで達成したい真の目的を聞き出したかったのです。まさかいきなり殺そうとする人だとは思わなかったので・・・」
確かに今日の俺の行動だけを見れば、見ず知らずの人々を助ける善人に見えただろう。
「私の目的はサフィーラ教大司教としてサフィーラ様の信仰を集めることだ。今はこれ以上話せない。それでも協力するか?」
「はい、もちろんです」
「では協力してもらおう。だが、裏切れば殺す。」
「はい。いつかユリシーズ様が真の目的を話してくれるぐらい信頼されるように頑張ります」
そんな日がくるのか、それまで彼女は生き延びることができるのか、そんな未来のことは俺にも分からなかった。