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新婚(仮)生活――2

 俺と蓮華の部屋は最上階のもの。造りは2LDKだ。


 部屋のなかをひととおり確認し、蓮華が目を丸くする。


「とっても豪勢なお部屋ですね」

「ああ。父さんに感謝しないとな」


 蓮華の言うとおり、俺たちの部屋は豪勢の一言だった。


 リビングダイニングは、一般的なマンションの一室がそのまま入るくらい広い。


 リビングダイニングの壁には大型液晶テレビが埋め込まれており、あらかじめ用意されていた家具も、シンプルながら上等であることが一目でわかる。


 キッチンには最新の家電が揃っており、浴室のバスタブはふたりで入っても問題ないくらい大きかった。


「セキュリティーも万全ですし、ステキなふたり暮らしが送れそうですね」

「ステキになるかどうかはわからないけどな」

「もう。秀次くんは素直じゃないんですから」

「紛れもない本音だが?」

「お風呂で裸の付き合いをすれば少しは打ち解けてくれるでしょうか? ちょうどふたりで入れそうですし」

「絶対に止めてくれ」

「フリですか?」

「断じて違う」


 いたずらっ子みたいにニマニマ笑う蓮華を、すげなくあしらう。


 ふたりで入浴しようだなんて、とんでもないことを考えるな。学校ではもっとおしとやかな感じなのに。


 あるいは、俺の前だからこんな態度を取っているんだろうか?


 そんなことを考えて、俺はすぐに(かぶり)を振った。


 バカバカしい。蓮華が俺への恋愛感情を抱いているなんてあり得ない。単純に、新居に引っ越してきたことでテンションが上がっているのだろう。


 そう結論付け、俺はいまだにはしゃいでいる蓮華を(いさ)める。


「バカな話をしてないで、早く引っ越し業者を部屋(ここ)に通そう」

「そうですね。いつまでも外で待たせるのは忍びないですから」


 蓮華が素直に頷き、俺たちは外で待っている引っ越し業者のもとに向かった。





 二〇分後、リビングダイニングにはたくさんの段ボール箱が並んでいた。ここだけではない。今日から俺と蓮華が使う個室にも、少なくない段ボールが運ばれている。


「さて。荷解きをはじめるとするか」


 腕まくりしながら言うと、蓮華が「はい」と頷く。


「それぞれの私物は自分で、共用のものは協力して開けていこう」

「その前に提案があるのですが、いいですか?」


 いざ荷解きをはじめようとしたところで蓮華が手を挙げた。段ボールを開けようとしていた俺は手を止め、尋ねる。


「なんだ?」

「共用のものの荷解きは、わたしに任せてください」

「は?」

「それから、家事もわたしに一任してほしいんです」


 蓮華の提案を聞いて、俺は目をしばたたかせた。


「そんなにも抱え込んだら大変だろ」

「大丈夫です。ちゃんと花嫁修業をしてきましたから」


 蓮華が「むんっ!」と両腕に力こぶを作った。やる気満々といった様子だが、そこまでしてもらうのは流石に申し訳ない。


 眉間に皺を寄せていると、俺がばつの悪さを感じているのを察したのか、蓮華が柔らかく微笑む。


「これは役割分担ですよ。秀次くんにはお仕事があるのでしょう?」

「たしかに、あるにはあるが……」

「『男性は仕事、女性は家庭』――古びた考えではありますが、男女の能力を踏まえれば適材適所と言えます。わたしはそんな妻になりたいんです。夫である秀次くんを支えたいのですよ」


 真っ直ぐな目で蓮華が告げる。微塵の迷いもない宣言に、俺は折れるほかになかった。


「……好きにしてくれ」

「はい♪」


 ぶっきらぼうに言うと、蓮華がニッコリ笑う。


 なにがそんなに嬉しいのやら。本当に、奇特なやつだよ、きみは。

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