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お見合いに行ったらクラスメイトが現れた――1

 お見合いは、世界的に有名なあのガイドブックで三つ星を獲得した、老舗の料亭で行われることになった。


 お見合い当日、黒いスーツに着替えた俺は、料亭の一室で相手を待っていた。


 人生初のお見合いということで、流石に緊張を禁じ得ない。ただ、俺が緊張している理由は、お見合いがはじめてだからだけではない。俺はまだ、お見合いの相手を知らされていないのだ。


「結局、今日まで見合い相手が誰なのか教えてくれませんでしたけど、どうしてなんですか?」


 俺は隣に座っている女性に尋ねる。


 中肉中背で、ライトブラウンのセミロングヘアと、同色の垂れ目を持つその女性は、二〇代前半ほどの見た目をしている。だが、見た目とは裏腹に、彼女の実年齢は三九歳。


 彼女は山吹小百合。仲人(なこうど)として立ち会ってくれた、俺の母親だ。


「ふふっ、どうしてでしょうね?」

「俺はそれを()いているんですが?」

「残念ですけど教えてあげられません。面白みに欠けてしまいますので」

「息子の将来を左右する催しごとに面白みを求めないでもらえます?」


 おっとりとした口調ながら、母さんの態度はのらりくらりとしたものだ。俺は深々と溜息をつく。


 ほわんほわんとした雰囲気から天然癒やし系と勘違いされがちな母さんだが、実際はとても頭が切れ、イタズラ好きでもある。見合い相手を俺に教えないのは、母さんがなにかを企んでいるからだろう。


 我が肉親ながら、面倒なひとだよなあ……。


 眉間に皺を寄せて、母さんを問い詰めようと口を開く。


「山吹様。お見合いの相手がお越しになりましたよ」


 料亭の仲居さんから声がかかったのはそのときだ。喉まで出かかっていた追求の言葉を俺はのみ込む。


 母さんの企みはわからないけど、相手が到着したのなら、部屋に通さないわけにはいかないよな.


 もう一度溜息をついて、「どうぞ」と、部屋の外にいる見合い相手に声をかける。


 ふすまが開かれて――俺はあんぐりと口を開けた。


 ふすまの先に立っていたのは、赤地に白百合の花が描かれた着物をまとう、目を見張るほどの美少女。


 ゴールデンブロンドの長髪をハーフアップお団子にした彼女は、俺のよく知った――というか、ほぼ毎日見かけている女性だった。


「つ、月見里さんが見合い相手なのか?」

「はい。その通りですよ、山吹くん」


 そう。母親かと思われる仲人を連れ立って現れたのは、学校一の美少女こと月見里蓮華さんだったのだ。


 月見里さんが、どこか楽しんでいるような微笑みを浮かべる。俺が――クラスメイトが見合い相手だったにもかかわらず、動揺している様子は微塵もない。


 俺は察した。


 月見里さんは、俺が見合い相手だということを事前に知らされている。なにも知らなかったのは俺だけなのだろう。


 母さんが、見合い相手が誰なのかを教えてくれなかったのは、俺の驚く顔が見たかったからか……嫌になるよ、まったく。


 俺がげんなりするなか、月見里さんがペコリと頭を下げた。


「月見里蓮華です。この(たび)はお見合いの話を受けていただき、ありがとうございます」

「山吹秀次です。この度は一泡吹かされてムッとしています」


 俺が憎まれ口をたたくと、サプライズ大成功とばかりに、月見里さんと母さんがコロコロと笑った。

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