表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

デートは視察とともに――4

 視察とデートは、その週の土曜日に行うことにした。


 迎えた土曜日の午前九時頃、俺は待ち合わせ場所として有名な、都内の駅前にある犬の銅像の前で蓮華を待っていた。


 俺たちは同棲しているので、本来は待ち合わせをする必要なんてない。それなのに、なぜ待ち合わせをしているのかというと――


「そのほうがデートって感じがするじゃないですか」


 と蓮華に力説されたからだ。


 そんな事情があり、準備を先に終えた俺から外出して、蓮華を待っているわけだ。


「やっぱり緊張するな」


 人生ではじめてのデートということで、自分でもわかるくらい俺はソワソワしていた。隣を歩く蓮華に恥をかかせないため、身だしなみには気を遣ったが、本当にこれでよかったのかと何度も考えてしまう。


「お、お待たせしました」


 意味もなくジャケットの襟を整えているとき、左側からやや強張った声が聞こえた。もちろん、蓮華のものだ。


 ドキン! と鼓動が跳ねるなか、俺は蓮華のほうを見やる。


 瞬間、俺は目を奪われた。


 蓮華は黄色いブラウスと花柄のフレアスカートを合わせ、アクセントに紺のウエストリボンを巻いていた。足元にはウエストリボンと同じ、紺色のヒール。肩に掛けているのは黄色いポシェット。いつもは下ろしている髪はハーフアップにされており、大人っぽさが醸し出されている。


 現れた蓮華に、老若男女問わず、周りの人々は揃って見とれていた。しかたないことだろう。いまの蓮華は、この世に舞い降りた美の女神としか思えないのだから。


 蓮華が俺のもとに小走りで寄ってくる。見とれていたためか、その時間がやけに長く感じた。


「ど、どうでしょう、この格好? 似合っていますか?」

「……綺麗だ」

「ふぇっ!?」


 期待と不安が半々といった表情で尋ねてきた蓮華に、呆然としていた俺はつい素で答えてしまった。顔を一気に赤く染めて、蓮華が()頓狂(とんきょう)な声を上げる。


 そんな蓮華の反応を見て、ようやく俺は我に返った。


 ななななにを素直に答えているんだ、俺は!


 自分が口にした感想を思い出して、俺の頬が熱を帯びる。(はた)から見たら、蓮華に負けないくらい真っ赤な顔をしていることだろう。


 なんとか誤魔化したくて、視線をさまよわせながら言葉を探す。


「い、いまの答えは、き、きみに見とれていたからであって……!!」

「見とれてくれたんですか!?」

「ほあぁっ!!」


 が、テンパっていたせいでさらに墓穴を掘ってしまい、俺は奇声を発した。対する蓮華は、まん丸な瞳をより丸くして、キラキラと輝かせている。


「ビックリしましたけど嬉しいです! ありがとうございます、秀次くん!」

「そ、そうか。ならよかった」

「はい。秀次くんに褒めてもらいたくて着飾りましたので」


 すでにいっぱいいっぱいだった俺に、蓮華が追撃を見舞ってきた。


 俺に褒めてもらいたくて着飾った!? 破壊力ありすぎるだろ、その発言!


 もはや俺は悶絶寸前だ。流石に照れくさいのか、蓮華もモジモジしていた。大変むず痒い雰囲気が、俺たちを中心に展開されている。


「じゃ、じゃあ、行くか」

「は、はい」


 いても立ってもいられなかった俺は、コホンと咳払いして蓮華に促した。コクリと頷いた蓮華が隣に並び、俺たちは大型複合商業施設を目指して歩き出す。


 いまから蓮華とデートすると思うと、おめかしした蓮華が隣を歩いていると思うと、ドキドキしすぎておかしくなってしまいそうだ。


 そんななか、ちょん、と蓮華の右手の甲が俺の左手の甲に触れて、驚きのあまり飛び上がりそうになる。反射的に顔を向けると、蓮華はなにかを期待するように俺をジッと見つめていた。


 仕草と表情で、蓮華がなにを求めているのかはわかる。けれど、それを実行するには勇気が必要だ。


 それでも、デートなんだしな。


 なけなしの勇気を振り絞り、震える手で蓮華の手を取る。一瞬ビクリとしたが、蓮華も俺の手を握り返してくれた。


 さらに赤くなった顔で蓮華がはにかむ。


「な、なんだか照れちゃいますね」

「そ、そうだな」


 たった一言、そう返すのが精一杯だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ