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Day2 透明人間(お題:透明)

「ケイトさん、透明人間になれる魔法道具ってあるんですか?」


 突拍子もない質問をされ、私は手を止めて、隣の席に座る後輩を見た。

 今年入局したばかりの十八歳の新人。ハキハキと受け答えしていて、上司や相手方からの受けもいい。若干天然パーマが入っている金髪を気にしているようだが、それは個性として捉えていいと思う。指導の中心は私となっているため、仕事の話から日常の雑談までよくしていた。


 そんな中で突然の話題を振られて、目をぱちくりさせる。薄茶色の髪をお団子状にまとめた私の頭の上には、文字通り疑問符が並んでいた。

「どうしてそんな道具が気になるの?」

「この前、テレビのドラマを見ていたら、そんな道具が出てて。実際のところ、どうなのかなって」

 なるほど、ドラマの中の道具だから作り物でいいのかと、確認したのか。

 私は軽く腕を組んで、天井を見上げた。わざわざ質問してくると言うことは――

「サミー自身で、局の認可道具の一覧を見て調べたんでしょう? ないはずだと思うけど」

「はい。だけど、もしかしたら漏れがあるかもしれないと思って、仕事の経験が俺よりも長い、ケイトさんに聞きました」


 私は魔法道具管理局――通称‟魔道管局(まどかんきょく)”の魔法道具を世に出しても良いかの認可をしている、認可部で働いている。入局した五年前は認可部ではなく、局の総務部にいて、この部には三年前に異動してきた。だから一年くらいしか勤めていないサミーよりは長いが、ベテランとは言いにくい。

 私よりももっと経験が長い人に聞けばいいのに……。


 そう思っていると、背後から落ち着いた青年の声が聞こえてきた。

「透明になれる道具なんてものは存在していない。理論的には不可能ではないが」

 振り返ると、眼鏡をかけた黒髪の長身の青年が立っていた。私よりも五歳年上の先輩、グレンさんだ。言葉数は多くないため、初見では近寄り難い人だが、質問すれば色々と話してくれる、知識がとても豊富な頼れる先輩だ。入局してから十年間、ずっと認可部一筋らしい。

「理論上、どういう感じで作成できるのですか?」

 私は興味本意で聞いてみる。グレンさんは特に嫌がるそぶりを見せず、続けてくれる。

「まず、四大元素の属性がすべて必要になる。さらに光属性も必要になってくる。これを聞いただけでも、作成するのがかなり難しいとわかるだろう」


 光属性の魔法を使える者はごく僅か。噂によれば数えるほどしかいないらしい。

 魔法道具というのは、魔法使いが様々な魔力を道具に込めることで作り出された物をいう。魔法道具があれば、魔法を扱える者でなくても、その力を引き出すことができるのだ。そのため、魔法使いの割合が人口の一割以下の国でも、魔法の恩恵を受けることができていた。


 四大元素――火、水、風、土の四種類については、個々であれば扱える者はそこそこいる。だが、光に限っては魔法使いの登録名簿を見る限り、両手で数えられる程度しかいない。

 そして、魔法使いだからといって、すべての人が魔法道具を作成するのに手助けをしてくれるわけでもない。特に光属性の魔法は発動するにもかなり労力を有するため、魔法道具なんかに力を与える人は皆無と考えていい。


「そして様々な属性が管理する環境を事細かに把握し、光の魔法で屈折が上手く働くようにすれば、目の錯覚などで、他人からその人は見えないという、いわゆる透明人間に近いものは作れるだろう」

 グレンさんは横目でサミーのことを見る。サミーは視線に気づくと、はっとした表情をして、口を開いた。

「そうなんですね、教えてくださり、ありがとうございます。さすがグレン先輩は物知りですね」

 お礼を言っているが、どこか不服そうな表情だった。ぼそっと彼の呟きが聞こえてくる。

「……そんなまともに答えなくてもいいですよ。ケイトさんと話す話題が欲しかっただけなのに……」

「何か言ったか、サミー?」

 グレンさんは眉をひそませている。

「いえいえ、何でもありませんよ。仕事しますって!」

 椅子を前に進ませて、机の上にある書類に手をつける。私はグレンさんと視線が合うと、お互いに首を傾げたのだった。


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