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Day16 危ない道具(お題:レプリカ)

「ケイトさん、言われたとおり小さいですが、レプリカを持ってきました。本物はこんなに大きいので、さすがに持ってこれませんでした」

 男性は両腕を伸ばして、全身を使って丸を描いた。大人よりも遙かに大きい魔法道具、さすがに魔道管局に持ってくるのは、難しいのだろう。

 立体的に道具を見たかったので、レプリカを持ってきてくれるだけでも助かった。文字、二次元の図面だけでは、この道具を想像できなかったのだ。


 私は男性から出された物をまじまじと見た。率直に言ってしまうと、蟹に見える。

 全身は赤く、中心は形としては三角の甲羅がある。鋭いハサミが上部にあり、その脇に黒い目、そして下に脚が四本ずつ生えている。

 頭の中で見たことを文章にしたが、結局はどう見ても蟹である。

 図面でも蟹だとはわかっていた。だが、実は少し特殊な形をしていて……というわけではなかった。やはり見た目は普通の蟹か。


 では、中身である魔法は、どんな属性が込められているのだろうか。

「間違いがあっては困ると思いますので、どこにどの属性の魔法が込められているか、説明してくれますか?」

「もちろん!」

 男性は蟹のレプリカを軽く撫でてから、意気揚々と説明し始めた。

「まずこの一番大きなところ、親爪といいますが、ここには水の属性が込められています。そうすることで、すいすい泳げるようになりました!」

 水辺の生物なので、水の属性が入っているのは、予想通りだ。

「次に甲羅は土属性が込められており、固くなります」

 男性が甲羅の部分を力強く押す。もともと甲羅に見立てて作ったのもあるが、固そうに見える。私も両手の親指を使って押したが、びくともしない。さらに男性がハンマーを持ってきて、甲羅を叩いた。小気味のいい音がしたが、まったく無傷だった。

 すごい、土の属性がしっかり込められている。レプリカといえど、本物と大きさ以外、違いはないのかもしれない。

「こちらの八本の脚には風属性が込められています。この脚を鋭く動かすことで、風の刃を作り出します」

 蟹から風の刃?

 疑問符が浮かんでいる最中に、私の真横を小さな風の刃が通り過ぎていった。切られた髪が数本床に落ちる。

 今までニコニコしていたが、さすがに顔をひきつらせた。

「ちょっ、危ないじゃないですか! 顔に当たったら、どうするつもりでしたか!?」

「この子はそんなに調整が下手ではありませんよ。ケイトさんが動かなければ、そんなこと起こりません」

「あのですね、結果として良かったとしても、あくまでも仮定の話ですよね。私が動いていたら、どうするつもりでしたか!」

「この子がそんなヘマをするわけありません!」

 魔法道具のレプリカにまで‟この子“付けとは、かなり熱が入って開発されたようだ。これ以上、言い合うのはやめよう。話を続けてくださいと促す。

「甲羅の中にある味噌には、火属性が込められています。そうすることで口から――」

 私はとっさに目の前に水属性の石を置いた。蟹の口が開かれた瞬間、口から炎が吐き出され、私に向かってきた。机の上に置いた石が即座に反応し、四角いパネルを作り出す。それは水でできており、炎が衝突すると、音立てて消えていった。

 私は間髪置かずに、言い放つ。

「だから危ないじゃないですか! 明らかに私のことを狙いましたよね。火傷させるつもりですか!? 傷害罪になりますよ!」

「ケイトさん、防いだじゃないですか。さすがですね。いや、友人はもろに炎を浴びて、大変でしたよ。火傷しちゃってましたね」

 はっはっはっと笑うが、笑い事ではない。道具云々よりも、作り手の思考の方が危なすぎる。

 道具を認可するときに、作り手の思考をチェックする欄はあっただろうか。

 いや、他の方向から攻めて、この案件は潰した方がいい。

「以上が説明となります。どうですか、この魔法道具は! 水辺で攻められたとき、これがあれば様々な攻撃を防ぐだけでなく、攻めにも転じられますよ。なんと素敵な道具でしょうか! 是非、認可を!」

 試作の段階で被害者まで出ている物を認可できるか! と大口を叩きたかったが、また炎や風の刃が出されるおそれがあったので、私は言葉を飲み込んだ。


 淡々と事務的な口調でお返しする。

「ご説明ありがとうございました。大変ためになりました。質問がありましたら、また連絡いたします。なお、審査結果は後日郵送にて、ご報告いたします。仮に不服があった場合は書面で回答するように。直接乗り込まれても困りますので、その点はご承知ください」

 レプリカと男性の様子をちらちら見ながら言い切る。男性は特に害したようでもなかったのか、ニコニコした顔で頷いていた。

 これは認可が出なかったときのことを考えていないな……。今、言ったことは事実だし、何かあったら周りの人に頼ろう。

 そう思いながら男性を見送り、机の下に忍ばせていた、録音機をそっと切った。



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