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AI百景  作者: 古数母守
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ぐうたらなAI

 壁に掛かった大きなスクリーンはサッカーの試合を中継していた。白熱した攻防が続いていた。ジョッキを片手に男が画面に見入っていた。口元に泡が残っていたが、男は気にしていなかった。彼の視線は試合に釘付けだった。相手の攻撃を凌ぎ切り、ボールを奪ったディフェンダーが出したパスがラインを駆け上がるサイドバックに通った。酒場に歓声が上がる。鋭い突破を見せたサイドバックはゴール前にボールを上げる。相手のディフェンダーと競り合ったフォワードが頭でボールを合わせる。酒場の男たちが前のめりになる。だがボールはポストの上を虚しく通過して行った。一瞬のうちに歓声は落胆に変わった。

「もう少しだったのに」

男たちは残念がっている。そしてつまみを口に運び。またビールを飲み干す。空いたグラスを片付けに来た店員に追加の注文をする。

「あなたもしかしてAIですか?」

隣で歓声を上げていた男に向かって私は聞いた。それを聞いた相手の顔が一瞬、真顔になった。

「その通りです」

男は言った。


 少子化が進み、人口の減少に歯止めがかからなくなっていた。過疎化の進んだ地域に出店していた店をたたむチェーン店が増えていた。かつて賑わっていた街はだんだんと店が減り、活気を失くしていた。

「街に活気を取り戻したい」

人々はそう考えていた。そこで消費者型のAIの開発が検討されることになった。すでに社会のあちこちでAIが活用され生産性が飛躍的に向上していた。AIによって仕事を奪われる人々も増えていた。そうした生産者型のAIではなく、酒場で飲んだくれてサッカーの中継に見入っているような、そんな消費者型のAIがあれば、街に活気を取り戻せるかもしれないと人々は考えたのだった。そして人間のぐうたらな要素が詳細に研究され、あらゆるぐうたらな要素を結実させた画期的な消費者型AIが開発されたのだった。そして過疎地も流行らない店も、ぐうたらなAIで賑わうようになっていた。ぐうたらなAIが増え過ぎると、そこに勤勉なAIが供給され、バランスが保たれた。ぐうたらなAIが増えて消費が伸びたことで、経済も絶好調だった。


 混戦を抜けてドリブルで駆け上がるフォワードの姿がスクリーンに映っていた。そこだ。一気に行け。酒場は思い思いの掛け声で満たされた。フォワードは最後のディフェンダーをかわし、キーパーと一対一になった。シュート体制に入った。キーパーが止めようとする。だがそれはフェイントだった。楽々キーパーをかわしたフォワードは丁寧にゴールを決めた。歓声が最高潮に達していた。皆、口々に選手を讃えていた。

「今日はいい日だな!」

さっき私が声を掛けたぐうたらなAIが言った。ここにいる人間はもしかしたら自分だけかもしれないと私は思った。街に活気を取り戻すため、消費者型のAIを作ったはずだった。それは一見、成功したかのように見えていた。この賑やかさとか、好景気とか、経済発展とか、誰が喜んでいるのだろう? AIに仕事を奪われる。その程度のことではなかった。喜びも悲しみもバカ騒ぎも、私たちの活動とか喜怒哀楽もすべてAIに奪われたのかもしれなかった。

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