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AI百景  作者: 古数母守
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生きる

 まぶたに明るい光を感じてアキラは目を覚ました。柔らかな陽射しがカーテンから漏れていた。部屋は快適な温度に保たれていた。気温と室温と湿度と時刻、その他季節による変動を含めて、AIによる自動制御で快適かつ経済的に空調がコントロールされていた。アキラはトイレで用を済ませた後、ダイニングキッチンに向かった。アキラの睡眠パターンから起床時間を予測していた調理用AIが朝食を作り終えたところだった。栄養バランスとアキラの好みと季節感を加味して、AIは自動で料理を作っていた。猫の顔をした配膳ロボットが朝食を運んで来た。アキラは豆腐とわかめの味噌汁を一口すすった。久しぶりに水分と栄養を供給されて身体が喜んでいた。朝食を済ませるとアキラはモニタの電源を入れた。ニュースが流れていた。ニュースは国内や隣国の様子、株や為替の動向、そして気候変動が良い方向に向かっていることを伝えていた。すべてをAIに任せるようになってから、環境に配慮しつつ経済が回っているのだとアナウンサーは伝えていた。そのアナウンサーもAIだった。アキラは今日も一日することがなかった。アキラだけでなく、みんなそうだった。人間のできることはすべてAIがするようになっていた。AIが今ほど賢くなかった頃、アキラはネットワーク関連のソフトウェアを開発していた。その仕事もAIに取って代わられてしまった。アキラよりもAIの方がコストパフォーマンスにすぐれていた。失業したアキラは補助金を受け取るようになった。アキラだけではなくて、ほとんどの人が政府からベーシックインカムを受け取って暮らすようになっていた。AIによる生産性の向上で人間が働かなくても経済が回っていた。企業の利益率は向上する一方で、政府はそこから十分な税収を獲得することができた。そしてそれをアキラたちの生活資金に回していた。

「俺たちは、いったい何のために生きているのだろう?」

アキラは思った。自分の知識やスキルや長所がある日、突然、なくなってしまう。そんな体験をアキラたちは味わった。初めは文章やイラストやプログラムや翻訳がAIで自動生成できるようになった。それからまもなく翻訳者は居場所を失くした。イラストレーターもその価値を買い叩かれるようになった。決まった仕様をプログラムに置き換えるだけのプログラマーも仕事を失くしていった。アキラは上位の設計者で、仕様を決める側にいたので、しばらくの間は安泰だったが、AIの進歩は留まるところを知らず、アキラたちがやっていた作業もやがてAIがするようになった。難しい本を何冊も読んで、作成したプログラムを苦労してデバッグして、何かを習得するために膨大な時間をかけて、自分を高めて来た。そうした一切の努力が意味を失くしてしまった。今はただ、ベーシックインカムを支給してもらって生き延びているただの乞食だった。

「死ぬまでずっとこんな生活が続くのだろうか?」

アキラがそう思った時、不意にモニタの電源が落ちた。空調も止まったようだった。それだけではない。室内を制御しているあらゆる機能が停止したようだった。いったい何が起こったのだろう? アキラは不安になった。だが情報を収集しようにもネットワークに接続することができなかった。仕方なくアキラは外に出た。

 不安に駆られて外に出て来た人々が公園に集まっていた。皆、何が起きたのか知りたがっていたが、情報を提供してくれる者はいなかった。

「お前はコンピューターが使えるか?」

後ろから声がした。振り返ると眼光の鋭い男が立っていた。

「以前、ネットワーク関連のソフトウェアを開発していました」

アキラは言った。

「そうか。一緒に来てほしい」

男は言った。アキラはその男について行った。どうせすることもなかった。仮に騙されているのだとしても、騙されてもいいと思っていた。


「我々は生き延びなければならない」

地下の狭い空間に人々が集まっていた。リーダーらしき人物が集まった人々を鼓舞していた。AIが反乱を起こし、人類に牙を向けたということだった。あちこちで人々が虐殺されているということだった。それが本当のことなのか、アキラには判断のしようがなかった。

「君は何ができる?」

「ネットワーク関連のことなら少しはわかります」

「そうか、コンピューターをハックしてやつらのことを探れないか?」

リーダーがアキラに言った。その瞳は、アキラに対する信頼と期待に輝いていた。その言葉は、アキラの能力に対する尊敬に満ちていた。

「わかりました。やらせてください」

アキラは言った。できるかどうかわからないが、やってみようと思った。久しぶりに生きる喜びが漲って来るのをアキラは心地良く感じていた。

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