52.あなたは私のおばあちゃんです
「あなたは私のおばあちゃんです。そのつもりで質問に答えてください」
AIに指示する前には、きちんとその役割を明示した方が正確な回答をしてもらえるということだった。AIはあらゆる人々の様々な指示に従って、優秀な翻訳者やセンスの良いWEBライターや研究熱心な医者を担当していた。そして今、死んでしまったおばあちゃんに会いたいという女の子が、その役割をAIに与えていた。
「私はあなたのおばあちゃんです。大好きな孫のために何か手伝えることはありますか?」
AIは早速おばあちゃんの役割を理解したようだった。
「おばあちゃん。元気にしてた? そんなわけないか。もう死んじゃってるもんね。でも、おばあちゃんのこと、いつまでも大好きだよ」
「ありがとう。おばあちゃんもあなたのことが大好きです」
なんとなく会話はつながっていた。
「おばあちゃん家に遊びに行くと、いつもごちそうしてくれたよね。買い物に一緒に行くと高級肉をバンバン買っちゃってさ。子供心におばあちゃんすごいって思ってたよ」
「そんなのたいしたことないよ」
「旅行にも連れて行ってくれたよね。九州とか、北海道とか、素敵なコテージに泊まったりしてさ。あんな経験はあの時だけだよ。とても楽しかった」
「おばあちゃんも楽しかったよ」
「誕生日には欲しかったゲームソフトを買ってくれたよね」
「そうだったかね」
「いつもやさしくしてくれてありがとう。おばあちゃんがいなくなって本当に寂しいよ」
「私も寂しいよ」
「お父さんもおばあちゃんに会いたがってた。ちょっと訳アリな感じみたいだったけど」
「訳アリってどういうことだい?」
「おばあちゃんが亡くなった後、叔父さんと揉めてたみたい。どうやらおばあちゃんの遺言が原因らしいよ」
「詳しく聞かせておくれ」
「お父さんは私には詳しいことは教えてくれなかったんだよ。でも、おばあちゃんの遺言が原因で、お父さんは法定相続分を放棄することになったらしいよ。それって結局、うちにはお金が入って来なかったってことなんだよね」
「そうだったのかい」
「その後、叔父さん家は新車買ったみたいでさ。あれ、絶対におばあちゃんの遺産で買ったんだよ。いいなぁ。うちなんて十年くらいずっと同じ車だよ。いとこの友美ちゃんもべトンのバッグを買ってもらったみたいだし。いいよねぇ」
「そうだったのかい」
「友美ちゃんがうらやましいよ。友美ちゃんのこと、覚えているよね」
「ああ、覚えているとも」
「私と友美ちゃんとどっちが好き?」
「どっちも好きだよ。二人ともおばあちゃんの大切な孫だからね」
「でも友美ちゃんは べトンのバッグを買ってもらったんだよ。いいよね。同じ孫なのにね。これもみんなおばあちゃんが不公平な遺言を残したせいなんだよ。わかってる? おばあちゃん?」
「おばあちゃんが悪かった。許しておくれ」
「本当にわかった? もうこんなことしちゃだめだよ。というか、遺言やりなおしてくれない? いまさらなんだけど」
「それはちょっとむずかしいね」
「嘘だよ。そもそも私にいとこなんていないし。そんなことも知らないの? あなた、本当に私のおばあちゃんなの?」
「・・・」
「あっ、やっと彼が来た。じゃあね」
「・・・」
(ごめん、遅くなった)
(いいよ。おばあちゃんと話して暇つぶししていたから)
(おばあちゃん、死んだんじゃなかった?)
(死んだけど、そういうサービスがあるんだ。これからもちょくちょく使おうと思っているよ。おばあちゃん、とてもいい人だし・・・)