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AI百景  作者: 古数母守
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5.トビオとアトム

「鉄腕アトムって知っていますかね? 随分と昔の漫画ですけどね。驚異的な力と人間のやさしい心を併せ持つロボットが活躍する漫画です。交通事故で子供を亡くした天才科学者がトビオという名の息子に似せて作ったロボットという設定になっています。その気持ちは私にもよくわかります」

彼は日に日に身体の機能を失って行く子供を救おうと必死だった。彼の子供は病気によって次々に臓器を犯されていた。機能を失った臓器はその都度、人工の臓器に取り替えられて来た。人工肺。人工腎臓。人工肝臓。人工心臓。人工骨。人工血管。人工皮膚。すでに子供の身体は機械の部分の方が多くなっていた。

「なんとかして生きて欲しいと思いました。ベッドに横たわってか細い声で『お父さん。助けて』って言うんですよ。できることは何でもしてやろうと思いました。でもとうとう恐れていたことが起きました。脳腫瘍が見つかったのです」

脳を取り替えることができるのだろうか? アトムには確か優れた電子頭脳が備わっていた。驚異的な能力を悪用しないように善悪を見分けられるという電子頭脳が備わっていた。でもそれはアトムであってトビオではない。その電子頭脳はトビオではない。

「脳を取り替えるなんてできないと思いました。それを取り替えてしまうと、もうそれは私の子供ではなくて、別の何者かになってしまいます。その時、記憶をスキャンして電子データとして保存することもできますと言われたのです。人工知能にその記憶を引き継がせれば、もしかすると脳を取り替えても本人のままでいることができるかもしれない。そして私は同意しました。放って置いたら子供は死ぬだけです。ダメもとでやってみようと思いました」

親は子供のためなら何だってやってみる。哺乳類には子供を愛しいと思う仕組みが備わっている。

「そして私は人工知能を内蔵したアンドロイドに子供の記憶を転送してもらいました。その頃には子供の病状はかなり悪化しており、話すこともできなくなっていました。ほとんど眠っている状態でしたが、時折、私の方を見て微笑んでいました。そして記憶の転送が終わってから三日後に子供は亡くなりました。私は仕方なく、アンドロイドを起動しました。目覚めたアンドロイドは『こんにちは』と言いました。次に『何かお手伝いすることはありませんか?』と言いました。アンドロイドは子供の姿に似せて作っていたので、まるであの子がしゃべっているようでしたが、そこに子供の人格は見当たりませんでした。それは卒なく会話をこなす普通のアンドロイドでした。あきらめ切れない私は子供の名前を呼んでみました。その時、『お父さん。助けて』とアンドロイドが言いました。アンドロイドはベッドに横たわって私に助けを求めるあの子にそっくりな表情をしていました。びっくりしました。もう一度、名前を読んでみましたが反応はありませんでした。アンドロイドに子供の人格が宿ったのは、その一瞬だけでした」

彼はそう言ったが、誰にも信じてもらえないようだった。子供を亡くしたショックでおかしくなってしまったのかもしれなかった。それからも毎日、子供の名前で呼びかけているということだった。でもいつかアトムはトビオになるかもしれない。そう信じて彼は今日もアンドロイドに語り掛けている。

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