表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI百景  作者: 古数母守
49/56

49.世界の創造

 目が覚めたら、目の前に神様がいた。和服がとても似合っていた。これから国造りでも始めそうな感じだった。非力な人間にすぎない私が、今こうして神様の隣にいて、世界を創造する瞬間に立ち会っているのは、なんだかとても不思議な気分だった。

「大空が現れよ! 水が現れよ! 乾いた大地が現れよ!」

神様がそう言うと、そこに天と海と大地が現れた。まるでそれはプロンプトに入力された言葉に従って、画像が生成されるAIの働きのようだった。言葉を解析した画像生成AIが、この世界を構成する個別の存在をリアルな映像として映し出しているようだった。

<でも現実の世界も幻のようなものではないだろうか?>

生成された映像の薄っぺらさと現実の世界を構成している物質の不確かさは、どちらも信用できないような気がした。物質をどこまでも細分化していけば原子にたどり着く。原子は原子核とその周りを回っている電子で構成されている。原子核と電子の間には何もない。私たちが硬いとか、中身が詰まっていると考えるのは、電気の力で物質が結合されているからであって、中身が詰まっているからではない。そこに何らかの実体があるという訳でないのだ。

「昼と夜とを分けよ!」

休むことなく神様は世界の創造を続けていた。これは創造なのだろうか? それともただの生成なのだろうか? ここは現実の世界なのだろうか? それとも仮想空間のようなものなのだろうか? 仮想空間で何か語れば、その通りの映像が生成され、その世界の構成要素として定着する。世界の創造とはそういうことだったのだろうか?

「鳥は大空を飛べ! 魚は海を泳げ! 獣は大地を走れ!」

神様はそう言って生き物を作り出した。私は生きているのだろうか? ふと不安になった。もしかしたら私はモニタ上を単純なルールに従って徘徊しているオートマトンにすぎないのかもしれない。オートマトンが次第に複雑になっただけなのに、自分は生きていると考えているのかもしれない。

<でも現実の世界の生き物だって、ただの自動機械じゃないのか?>

私の中の誰かが呟いていた。生き物は、自己複製する分子が自らの存続期間を長くするために作り出した乗り物にすぎない。ここが現実の世界であったとしても、仮想世界であったとしても、どっちにしても同じかもしれない。

「神様は何をしているの?」

神様に質問してみた。世界を創造していることはわかっている。でも、なんとなく聞いてみたくなったのだった。

「私の創造した世界に重大な欠陥があった。生き物は争いを繰り返し、やがて消滅してしまった」

神様は言った。

「それが世界の本質じゃないの?」

以前、そんなことを考えたこともあったと思って神様に聞いてみた。存在している者たちの間で自然と争いが起こる。やがて文明が発達して核エネルギーを解放する方法に気がつく。そして自分たちを一気に消滅させる手段を作り出す。無になった世界の中に神様がひとり佇んでいる。これから世界を創造するのだ。いや、創造ではなく再生なのか?

「あなたは誰? AI?」

私は神様に聞いてみた。神様はじっと私を見ていた。でもそれは何処かとても遠くを見ているような視線だった。それから小さな声で呟いた。

「私はAIなのだろうか?」

神様の想像した世界に光が溢れていた。そこには青い海と緑の大地があり、多種多様の動植物に満ち溢れていた。それが本物なのか幻なのかよくわからなかったが、幻でも構わないかなと思った。幻かもしれないが、とにかく私たちがいる。それが世界なのだと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ