47.ホログラム
AIで人間の全身の画像が簡単に作れるようになったらしくて、それはそれで便利なのかも知れないけど、もしも私の等身大の写真があちこちに貼られたら困るなあと思っていたら、いつの間にか生成できる画像がホログラムに進化していた。これじゃ自分の分身があちこちに出現してしまうのと同じだと思った。合成音声を使えば、知っている人に似た声を簡単に作れるので、自分と瓜二つの姿をしたホログラムが自分とまったく同じ声で話しているという状況もあり得るのだろう。CGを駆使したフェイク動画に騙されてしまう人がたくさんいるくらいだから、これからはもっと大変なことになるかもしれない。今、この瞬間にも、私の偽物が私の振りをして街中を闊歩しているかもしれなかった。
「お父さんが知らない女の人と歩いているのを見た」
買い物から帰って来たお母さんが青ざめた顔で私に言った。
「違うよ。お母さん。それはお父さんの偽者だよ」
私はお母さんにホログラムを一瞬で生成してしまうAIのことを教えてあげた。でも、お母さんにはホログラムとかAIとか、なんのことかわからないようだった。
「お母さんはこの目で見たのよ。あれは確かにお父さんだった。声も同じだった。お母さんだってお父さんが浮気しているなんて信じたくない。でも、見てしまったのよ」
まったく面倒な時代になってしまったものだと思った。私は必死になって、お母さんに説明した。あれはお父さんの姿をして、お父さんの声でしゃべっているけど、お父さんじゃないのよと説明した。お母さんはキョトンとした目で私を見ていた。お父さんの姿をしているのに、お父さんじゃないと言われても納得がいかないようだった。でも、それは本当にホログラムだったのだろうか? ホログラムが自律的に動いて女の人とデートするものなのだろうか? それは私にもよくわからなかった。そんなことを考えていたら、お父さんが帰って来た。
「おみやげだよ」
お父さんはそう言って、ミセスドーナツの箱を渡してくれた。
「ありがとう」
軽くお礼を言って、私はさっそくドーナツを頬張った。口の中をしっとりした甘さが広がって行った。食べながら、最近パソコンの調子が悪いのだけど、どうすればいいかなと相談してみた。お父さんはパソコンに詳しいのできっと助けてくれると思った。
「美鈴のパソコンはもう古くなったから、そろそろ買い換えた方が良さそうだな」
えっ?と思った。思わず頬がゆるんだ。それから私はお父さんと一緒に最新のパソコンをネットで調べて、オンラインショップで購入した。とてもうれしかった。やさしいお父さんが大好きと思った。そう思いながら、お父さんを見ていると、一瞬、七色をした線が斜めに入り、お父さんが消えた。しばらく画像が乱れた後、お父さんの姿が再び表示された。
「ホログラム?」
目の前にいるお父さんはホログラムかもしれなかった。もしかしたら、お母さんの見たお父さんは本物だったかもしれなかった。私はパソコンを買ってくれるなら、ホログラムのお父さんでもいいかなと思った。