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AI百景  作者: 古数母守
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46.創造性

 AIの創造的な思考力がついに人間を上回ったという報告が相次いでいた。果たしてそうだろうか? AIが画期的なデバイスを生み出して産業界にイノベーションを起こしたとか、従来にないまったく新しい視点の科学論文をAIが発表したとか、そんなことは聞いたことがない。それなのに創造性で人間を上回ったなんて言えるのか? 私はそう思っていた。

「何を根拠にこんな記事を書いているのでしょうね?」

K教授がこの件についてどう思っているのかを聞こうと思って、私は彼のもとを訪ねていた。K教授は今年で七十歳になるが、現在も第一線で活躍する理論物理学者だった。二十年前に初めて取材させてもらってからプライベートでも親しくさせてもらっている。彼の数々の創造的な業績に比べれば、AIがいったい何程のものかと思った。しかも彼の場合は、老いても尚、画期的な論文を書き続けている。彼のように若い頃から現在に至るまで、その創造性を発揮し続けている天才を私は知らなかった。K教授と話していると人間の持つ創造性の根源に触れているような気がした。そんな天才の仕事ぶりを近くで見て来た私には、創造性でAIが人間を上回っているなんて到底信じられなかった。

「産業界では随分と役に立っているようですよ」

K教授は言った。それは私も知っている。ソフトウェアのソースコードを瞬時に作成してしまうとか、そのとばっちりでソフトウェア業界では人員削減が進んでいるとか、従来は人間にしかできないと思っていた分野にAIが対応できるようになったということだ。だがそれが何だと言うのか? それは学習や訓練で身に着けた技能にすぎないではないか?

「それはわかります。でもそれは単なるスキルであって、創造性とはかけ離れたものだと思います」

「そうですか」

教授は何か言いたそうに見えたが、黙って私の言うことを聞いていた。私なんかより、常日頃から創造性を発揮している教授の方が人間とAIとの間にある越えられない壁について十分に把握しているのではないかと私は考えていた。

「創造性というのはむずかしいです。それが何なのか? 私たちはいままでも、そしておそらくこれからもわからないでしょう。ある程度まで発達した知性は自ずと新しいものを生み出すのかもしれません。それが人間のものであれ、AIのものであれ」

「AIもですか?」

私は教授の目を覗き込んだ。そんなことは信じられないという疑念の目を彼に向けていた。

「AIもです」

教授はそう言うと両手を顎の辺りに当てた。いったい何をするつもりかと思った瞬間、腕に力を込めて首を持ち上げた。胴体から離れた教授の頭を見て私は仰天した。

「御覧の通りです。AIもなかなかの創造性を持ち合わせているのです」

K教授は十年前に亡くなったということだった。現在も活躍を続ける創造性あふれる理論物理学者の正体を知って、私は愕然としていた。


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