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AI百景  作者: 古数母守
32/56

32.変わらぬ日々

 失意の日々が続いていた。真凛を失ったショックから立ち直れないでいた。彼女なしに生きて行くのは無意味だと感じていた。仕事は惰性で続けていた。何もしないよりは、何かしていた方が気休めになった。仕事から帰って来て、コンビニで買った弁当を食べ、シャワーを浴びた後、部屋着に着替える。パソコンの電源を入れる。テレビと共用になっている大画面のモニターにスタートアップ画面の風景が表示される。パソコンには真凛との思い出が残っていた。二人で旅行に行った時に彼女を映した動画がいくつかあった。古都を背景ににっこり笑っている彼女がいる。スマートフォンで彼女を撮影している私を見ながら「そんなことしてないで、一緒に並んで歩こうよ」と彼女は言っていた。今となっては、画像が残っていて良かった。それがなかったなら、かつて彼女が存在していたことを証明するものが何もないように思えた。動画を再生して、しばらくの間、思い出に耽っていた。映像に触発され、真凛と過ごした日々の記憶が頭の中を駆け巡っていた。気が付くと、動画はとっくに終わっていた。現実に舞い戻った私は画面をブラウザに切り替えた。今日も私の知らないところで何かしらの事件が起きていた。画面には様々なニュースが並んでいた。

<亡くなってしまった人と話してみませんか?>

ふと、そんな広告が目に入った。これは何なのだろう? 恐山かどこかでイタコが死者を呼び出してくれるというやつだろうか? 恐山に行って、真鈴を呼び出してもらうのもいいかもしれないと一瞬、思った。でも、イタコのお婆さんが真鈴を呼び出してくれたとしても、お婆さんの声しか聞こえないような気がした。少し気になったので、リンク先を辿ってみた。そこには故人の声が残っていたなら、アンドロイドに学習させ、故人と会話することができますと書いてあった。故人の映像が残っているのなら、その仕草や振る舞いをアンドロイドに学習させ、再現することができますということだった。姿かたちを似せることもできるということだった。


 それから一か月後、私の隣には蘇った真鈴がいた。生きていた頃と少しも変わらぬ笑顔で私をみつめてくれていた。出掛ける時もいつも一緒だった。周りから見れば、私たちは恋人同士に見えただろう。

 政府の発表によると人口は益々減少しているようだったが、街を歩く人の流れは昔と変わらないような気がした。電車もそれなりに混んでいた。私のように亡くなった人と一緒に生活を営んでいる人が増えているのかもしれなかった。

「今日もいい天気ですね」

「そうですね。すっかり暖かくなりましたね」

すれ違いざまに会釈しながら人々は会話を交わしていた。彼らの中には真鈴と同じようなアンドロイドがたくさん混じっているのかもしれなかった。

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