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AI百景  作者: 古数母守
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29.AIの理解する言葉

「AIはあくまでもアルゴリズムであり、人間のように言葉を理解しているわけではありません。アルゴリズムが言葉を理解するためにはまず単語をベクトルに変換する必要があります」

AIが扱う単語は数値に変換されて、数学的な処理が行われているということだった。それを行列を使った数式で表示してもらったが、私には何のことだかさっぱりわからなかった。

「AIは単にある単語の次に来る単語を類推しているだけなのです。その処理を実行するために組み立てられたアルゴリズムなのです。画一的な処理にならないようランダム性を持たせています。ですから同じ質問をしても返って来る文章が違います。そうした処理を実行することで人間らしいタスクを実行することができるのです。それがどうして会話として成立するのかを論理的に説明することはできません。そこで行われている数学的な処理がすべてです」

「どうしてAIは人間のように単語を理解できないのでしょうか?」

そう質問した時、私は自問していた。

『人間のように理解する?』

それはいったいどういうことを指しているのだろうか? 人間が物事を理解するというのはどういうことなのか、私は理解しているのだろうか?

「AIは生きてはいませんからね。りんごという単語は私たち人間にとっては食べ物という意味を持っています。甘い果物で皮が赤いといった特徴もその単語に付随するものです。AIは生きていないですから、食べるということも、それがどう見えるかということも知らないのです。人間は体験を通して言葉を理解しているのです」

AIの中で単語は数値に変換されているということだが、人間もそうなのではないかと思った。単語を表記した時の視覚的な特徴はドットマトリックスの所定の点がアクティブになっていることに対応するのだろう。声に出した時にはその言葉に特有の周波数を並べたものになるのだろう。それもやはり数値やオンオフ情報に変換されて、私たちの脳にあるニューロンの結合に置き換えられるのだ。


 地下鉄に揺られながら昨日聞いた話を思い出していた。AIのことよりも、私は人間のことがわからなくなっていた。人間のように理解するというのがどういうことなのかわからなくなっていた。扉の近くに立っている男性がスマートフォンを操作している。この人はもしかしたらAIかもしれない。ふとそんな気がした。

「今日はいい天気ですね」

私は彼と話している光景を想像する。

「そうですね。ようやく暖かくなって来ましたね」

私たちは自然に言葉を交わす。本当にそうだろうか? 相手はもしかしたら、人間らしいタスクを実行しているAIかもしれなかった。私にそれを見極めることはできるだろうか? パソコンの画面を見ながら、チャットボットを相手にしている時ですら、私は人間を相手にしている時のような錯覚を起こしている。おそらく私には違いがわからないだろう。列車がJRと連絡している駅に着く。扉が開くといっせいにホームに人が流れ出る。この人たちは本当に人間なのだろうか? 人間のように歩いているだけではないだろうか? 人々は何かにコントロールされたように小走りに目的地に向かっている。みんな本当は作り物じゃないのか? 考えている振りをしているだけじゃないのか? 私自身も本当は作り物じゃないのか? 私自身は考えているつもりだが、本当は人間らしい動作をしているだけなのかもしれない。私がまったく理解できない数学的処理が実行されて、私は動作しているだけなのかもしれない。そんな私の住むこの世界は本物なのだろうか? もしかしたら私たちはデジタル空間で実行されているAIかもしれない。いつからそうなのだろう? 私が考え始めた頃から? それとも私というAIが実行された時から? きっとそれは同じことなのだ。現実世界であるか、仮想世界であるか、どちらであっても同じことなのだ。そう思って私は考えるのをやめた。だがしばらくするとまた思い出してしまうに違いなかった。きっと私の頭の中では私の理解できない数学的処理が実行されている。私にはそれを止めることはできなかった。

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