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AI百景  作者: 古数母守
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28.マッチ売りの少女

 大晦日の夜、貧しい少女が雪降る街の中、マッチを売りながら歩いていました。途中、人力車をよけた拍子に靴が脱げ、はだしになって震えながら歩いていました。一日中、歩いてもマッチは一本も売れません。家に帰ればこっぴどく叱られるに決まっています。あまりの寒さに凍えてしまった少女は「一本だけなら」と思ってマッチを擦りました。シュッと音がして火が付きました。すると目の前に暖炉が現れたのです。いや、気のせいでした。仕掛けもないのに、そんなものが現れるはずがありません。辺りは暗く物悲しい風景のままでした。少女はこらえきれなくなって二本目のマッチを擦りました。すると今度は七面鳥の丸焼きが現れました。いや、気のせいでした。そんなものが現れるはずがありません。なんとなくそうだったらいいなと思っただけでした。凍えた両手に息を吹きかけて温めながら、少女が夜空を見上げると流れ星が過りました。少女はかわいがってくれた祖母の「流れ星は誰かの命が尽きようとしている予兆なのだ」という言葉を思い出しました。そして少女が次にマッチを擦ると、亡くなったはずの祖母が現れました。「お婆さん」と少女は呟きました。それもやはり気のせいでした。少女は次々にマッチを擦りました。そして最後のマッチを擦ってしまうと呟きました。

「ちくしょう。何も出やしない」

寒さと絶望に見舞われた少女はそこで倒れてしまいました。倒れた少女の上に雪が静かに降り積もっていきました・・・・・・


 気が付くと少女はパソコンの前に座っていました。パソコンの画面には次のようなメッセージが表示されていました。

<文章を入力してください。その内容に応じて動画が生成されます>

そこで少女は『暖炉』と入力してみました。すると目の前に暖炉が現れたのです。温まろうと少女は手をかざしてみましたが、それはただの画像でした。少女はプログレスバーが進むのをじっと眺めているだけでした。動画が終わるとまた入力画面に戻りました。

『七面鳥の丸焼き』と少女は入力しました。すると目の前に七面鳥の丸焼きが出現しました。おいしそうと思って少女は手を伸ばしましたが、それはただの画像でした。少女はまたプログレスバーをじっと眺めていました。動画が終わるとまた入力画面に戻りました。『おばあさん』と少女は入力しました。すると目の前に亡くなったはずの祖母が現れました。でも祖母は画面の中でニコニコ笑っているだけで、少女に何も語り掛けませんでした。

「何だ? フェイクか!」

少女がそう呟くと、辺りは物悲しい冬の街に戻っていました。

「マッチ要りませんか?」

少女は声を張り上げて言いました。フェイクなんて相手にすることはない。自分はリアルな世界でとことん生き抜くしかないのだ。彼女は非情で残酷なこの世界で力強く生きて行こうと固く心に誓ったのでした。

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