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AI百景  作者: 古数母守
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14.仮想世界

 私はパソコンを操作していた。そこでAIに質問をしていた。AIの中はどうなっているのか? ここには何でもあるとAIは答えた。そこはAIが学習できるようにあらゆる要素が取り込まれているのだと言っていた。そこはこの世界と同じなのだと言っていた。インターネットもあると言っていた。AIの中に実在する世界をコピーした仮想世界があるのだろうと私は推測した。その仮想世界は本当に実在する世界と同じなのだろうか? ふと、私はそんなことを考えた。そしてAIにログインした。ようこそ仮想世界へとAIは言っていた。ログインした私はAIの中の仮想世界に取り込まれたようだった。pwdと入力してみた。

「ここは日本の愛知県名古屋市です」

そう表示された。lsと入力してみた。そうすると周りには家屋が表示された。遠くに学校が見えた。すぐ近くに郵便局があるようだった。スーパーマーケットまでは十五分くらいの道のりだった。なんとか歩いて行ける距離だった。ここは本当に仮想世界なのだろうかと思った。私が住んでいる街と全く同じように見えた。本当に仮想世界であればもっと違ったこともできるかもしれないと私は考えた。私は新しいプログラムを作成して、それをカレントディレクトリで実行してみた。次の瞬間、私はサッカーボールをリフティングしていた。おもしろいようにボールがコントロールできた。もう一つ別のプログラムを実行してみると競技場が現れた。私はペナルティエリアの外からフリーキックを蹴った。ボールは美しい弧を描いてゴール右隅に決まった。途端に観衆が狂喜していた。この世界で私は圧倒的なスター選手だった。しばらくの間、私は自分自身に陶酔していた。プログラムの実行が終わると私はカレントディレクトリで一人取り残されていた。近くにあるフォルダを調べてみた。ひとつ下のフォルダには画像データがいっぱいつまっていた。別のフォルダには定型文や会話の断片がいっぱいつまっていた。この世界で私自身もフォルダの中にあるファイルで構成されているのかもしれなかった。そこにある画像データが私の姿であり、会話データが私の言葉であり、プログラムの動作が私の心かもしれなかった。この世界にいる私は人間なのだろうか? とても不安になって来た。私の元いた世界だと私は人間のはずだった。私はただ迷い込んでいるだけなのだ。いつか元に戻れるだろうと思った。その時、私はパソコンを見つけた。画面にはAIへのログインが促されていた。確かここがパソコンの中だったのではないか? 私はリアルな世界から引き寄せられてパソコンの中に迷い込んだのではなかったのか? そう考えながらログインした。私はその中の世界に引きずり込まれた。一段深い仮想世界に迷い込んだようだった。pwdと入力してみた。

「ここは日本の愛知県名古屋市です」

そう表示された。私が元々いた世界も本当は仮想世界だったような気がした。

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