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千夜一夜物語

作者: ちぃ

昔むかし、あるところに、口の無いお姫様がいた。

お姫様は、いつも綺麗な布で出来たマスクをして、口を覆っていた。

お姫様は、しゃべらないし、食べれないし、歌わない。

喜びも楽しみも悲しみも辛さも、お姫様は口に出せない。

ただ、出来ることといえば、ゆっくりと目を細めて微笑むことだけ。

お姫様はできるだけ微笑むようにしていたが、いつだって魔女だと呼ばれた。

なぜならば、お姫様は口から栄養を取ることができないので、魔法で花から栄養をとっていたから。

それで、お城にはいつだって季節の花々が咲いていた。


お姫様に求婚者はいない。

口の無いお姫様は、やっぱり不気味だし、おしゃべりができないのはとても退屈だと人は言う。

お姫様は花畑か、お城の塔の自分の部屋にいるようにしていた。

そうやって、お姫様なりに、他人を不快にさせないように気を遣っていた。

そして、そういう生活がこれからも続くのだろうと思っていた。

静かに、不快にさせないように、存在を消すように。


ある日、隣国の王子様がお姫様の国に訪ねてきた。

王子様は思っていた、不気味な姫であろうと、お姫様の国の財力は我が国にとっては必要なものだと。

そう思って訪ねてきたきた王子様だったが、どれだけ不気味かと思っていたお姫様が美しく微笑んだので、拍子抜けして、そして、恋に落ちた。


しかし、お姫様は深く深く心を閉ざしていた。

自分がマスクを外したら、王子様は不気味に思うだろう。

愛しい、会いたい、微笑んで欲しい、そんな言葉は全部消えていくだろうと思っていた。

それに、私はキスすら出来ないのだから、と一人涙を流していた。


王子様は、お姫様が一人泣いているのを知らない。

なぜなら、姫はいつも困ったようにゆっくりと微笑むのだから。


王子様はそれにもめげずに、花を贈った。

季節の花々を毎日毎日毎日届けた。

お姫様は、その花をずっと咲かせていたかったから、その花々から栄養を取ることは出来なかった。

やがて、お姫様の部屋は花々が咲き乱れる部屋となった。

お姫様は、口があればいいのに、キスができたらいいのに、と花に埋もれながら、涙を流していた。


ある日、王子様はお姫様の部屋を訪ねた。

そこに、お姫様の姿は無かった。


ただ、一匹の蝶が花々とキスをするかのように、密を吸っていた。

そして、王子様の周りで嬉しそうに羽ばたいた。

部屋は、花に溢れ、晴れ渡った空から明るい日差しが入り、鳥の声だけが聞こえてきた。

おしゃべりをねだるかのように蝶が王子様の周りを飛んだが、羽音もとても静かだった。

でも、願い事がかなったかのように、蝶は王子様の周りを飛んだ。


王子様は、静かに静かに涙を流していた。

お姫様の願いは、とても他愛ない年頃の女の子が持つようなものだったのだと気づいたからでした。

おしまい。

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