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歩く練習を始めてからサーシャは何度か試し、少ししたら、立てるようになった。サーシャは嬉しそうに、イザヤに笑いかける。
だが、少し歩くとぐらつき、慌ててイザヤが抱きとめる。
「思ったより、早い回復だな。」
ふぅ、と溜め息をつくサーシャに、イザヤは微笑みながら言う。
「そうですか?」
嬉しそうに言う。
「ああ。」
サーシャはテンションが上がり、また歩き出そうとする。それを追うように、イザヤも歩く。
毎日、これの繰り返しだった。その甲斐あって、やがてサーシャは一人で歩けるようになった。そしてイザヤに手を振り、イザヤに向かって歩き、到着すると、イザヤに抱きついた。
「ありがとうございます。イザヤ様。」
微笑みながら言う。
「何がだ、」
優しく髪を梳きながら、イザヤも笑う。
「歩く、練習に、付き合ってくださって。」
はは、と笑い声を立てる。
「当然だな。サーシャは我のものなのだから。」
そう言って笑うイザヤは、どこか艶やかだった。そんなイザヤに見蕩れるサーシャに、イザヤがキスをする。
もう何度目か分からない。サーシャも慣れてしまい、仄かに頬を染めて、受け入れていた。
(私、この方が好き.......)
でも、と思う。
(本当の事は、教えてはもらえない。)
その事が、サーシャの心に影を落とすのであった。




