雪の日【短編ホラー】
実家にある私の部屋は1階にあり、裏庭に面していた。裏庭は路地裏に通じており、帰るのが遅くなった日にはこっそり裏庭から窓を通じて入っていたものだ。その部屋で過ごしていたある冬の日の事。夜の間雪が降り続け、あまり雪が積もらないこの地域にしては珍しくひざ下まで雪が積もった。
「わぁ……!」
朝早くに目が覚めた私は窓を開け、裏庭に積もった雪を見て思わず感嘆の声を上げる。加えて今日は休日。雪を見て少しテンションの高い私はコンビニにでも行きがてら、雪を堪能しようと思い立ち、着替えを済ませ,、玄関から長靴を持ってくる。時間はまだ6時前。過保護な両親の事だ、まだ暗い中の外出は快く思わないだろうから、念には念を入れて部屋の窓から出入りすることにする。外に出ると冷たい空気と、足元に伝わるザクリとした雪の感触が心地よい。
「ふふ」
一人上機嫌な私は、未だ降り続ける雪の中、歩く感触を楽しみながらコンビニに向かう。
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10分ほどだろうか。コンビニから戻った私は、裏庭から部屋に戻るため、路地裏を進む。そして、裏庭に入ると。
「え?」
まだ薄暗い中で不可解なものを見つけた。それは、足跡だ。私の部屋に通じる窓から裏庭の出口まで続いている。もちろん、私が部屋から出た時に着けた足跡とは別にあるので、2人分の足跡が裏庭にはあった。そして、これが不可解だと思った理由はもう一つ。裏庭から出た後、私の足跡はあるけど、もう一つの足跡はないのだ。裏庭を出たところでぴたりと消えている。
「どういうこと……?」
怖くなった私は周囲を見回しながら、窓から部屋に入る。雪を楽しんでいたのに一気に気分が落ち込んでしまった。それから足跡の事を考えながらベッドに入った私は……
「!」
コン、コンと言う音で微睡みかけていた意識が覚める。どこから聞こえてくるのか耳を澄ませる。それは、裏庭に続く窓からだ。不規則に窓を軽くノックするような音。時刻は6時過ぎで、まだ外は暗い。風で何かが当たっている音でもなく、振り続ける雪の為、外からの音はそのノックする音しか聞こえない。ノックする音は止まず、震えながらベッドで様子を伺っていると。
ガン!!
「!」
一度、大きく窓を叩く音。何度も叩かれたら割れるんじゃないかと思ったが、それ以降音はしなくなった。それでもいつ音がし始めるかわからず、震えていると……
「……あ」
いつの間にか外は明るくなっていた。時計を見ると、8時。1時間以上こうしていたのか。両親も起きたのか物音がし始める。私は勇気を出し、窓を開ける。そこには……誰もいなかった。でも……
「ひ……!」
裏庭の雪には、数えきれないほどの足跡があった。まるで裏庭にだけ雪が積もらなかったかのように庭中踏みしめられており、何人もの人がいたのか、一人の人が歩き回っていたのかは定かではない。すぐに部屋を出て、両親に泣きついた私がそのことを話し、裏庭も見てもらう。両親も不気味がり、私は部屋を変えてもらった。
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「……っていうことがあったんだよ」
「えぇ……それって幽霊だったの? それともストーカー?」
数年後。友人2人と私の3人で飲んでいる時。私は怖い話をしたくなり、その話を二人にした。友人の一人は怖がるというより面白がってそんなことを聞いてくる。
「どうなんだろうね。どっちもありそうかも」
「危ないから気を付けなよ?」
「……ねぇ」
黙っていたもう一人の友人が、真っ青な顔でこちらを見る。
「ど、どうしたのその顔」
「もう一度よく思い出してほしいんだけど」
「う、うん」
「裏庭の足跡って、2つだけだったんだよね」
「コンビニから帰った後? うん、私の分と誰かの分の2つだけで、その後私が窓から入って3つになったけど」
「じゃあ……」
「?」
友人はバツが悪そうに口を開く。
「その謎の足跡は……部屋から出ていったのか、部屋に入って行ったのかのどっちかだよね」
完