病ンデル童話選【白雪姫】
グロ・サイコ・殺人・厨二病要素満載ですのでご注意。
――全部、私の欲しいものではなかったわ。
人々の褒め称える美貌も、狩人の同情も、小人達の献身も。
そして・・魔法の鏡の賞賛も。
私は・・・お母様に愛されたかった。
お母様の愛情こそが私の欲しかった、たったひとつのものだったの。
――でも。
お母様は私にくれたのは・・・私を憎しみ、厭う(いとう)、激しい憎悪の感情だけだった。
だから私はお城から逃げた。
大好きなお母様から愛を与えられないのであれば、自ら放棄しよう。
お母様を忘れようと。
けれども、逃げても逃げても・・・考えるのはお母様のことばかり。
お母様への想いは私の胸に、日々募っていく。
そして私は気付いたの。
凄まじく、狂おしいまでの嫉妬や憎しみを私に向けたお母様。
でもね。
それも、きっと――愛、なのよ。
だって好きの反対は嫌いではなく、無関心。
嫌悪の感情をむき出しにして、私を無視する事が出来なかったお母様。
だから・・・もしかしたらお母様は。
私を憎むことでしか、愛せないのではないかって、私は気付いたの。
ああ、なんていじらしいお母様。
だから、あの日。
あのおばあさんがお母様だって、分かった途端。
私の胸は歓喜で打ち震えたわ。
だって、お母様は私を殺すために、わざわざ毒林檎を作って。
わざわざおばあさんに変装して、訪ねて来てくれたのよ?
そこまでして私を殺したがったのよ?
執念深く、生きる事さえも許せない、その殺意。
やはり、私は間違えてなかったの。
私だけが理解出来る、お母様の私への想い。
・・・ああ。
これを愛と言わずになんて言うのかしら。
だから私は気づかないふりをした。
そして、わざと毒林檎を食べたの。
お母様が唯一、私に与えてくれた、お母様の想いの結晶がこの林檎。
・・・お母様と同じくらい、なんてあいらしくて、いじらしい果実なのかしら!
・・・私は、お母様の愛で死ねるなら・・・とっても幸せよ。
恍惚な気持ちで、林檎をかじった瞬間。
あの一瞬は。
間違いなく、私の人生の中で・・・本当に一番幸せな瞬間だったの。
――けれど。
また私は望まないまま、与えられる。
生きる事を、王子の愛を、そして王妃の座を。
全て、私にとってどうでも良い「無関心」なものばかり。
だからお母様。
私に最後のプレゼントをくださいな?
このどうでも良い退屈な世界で生きなければならない、憐れなあなたの娘にどうか最後の贈り物を。
真っ赤に焼けた鉄の靴を履いて、死ぬまで踊り狂ってくださいな。
そして私を口汚く罵って。私に呪いの言葉を思いっきりぶつけて。
・・・ああ、素敵。ああ、嬉しいわ、素晴らしいわ!
もっと私を憎んで、呪って。
忌み嫌って、恨みを募らせて?
お母様の呪詛の声を聞くだけで、私は幸せなの。
だって、憎悪こそが・・・お母様の愛なのでしょう?
お願い、お母様。
お母様は死の瞬間まで、頭の中を私への黒い感情でいっぱいにして。
そして・・・私を想って死んで行ってくださいな。
だってそれが・・・お母様にとって「愛する」という意味なのよね?
だから私もお母様に愛を送るわ。
この醜悪で退屈な世界から別れを告げられる「死」という最高のプレゼントを。
これが雪のように白くて、血のように赤い・・・真っ黒な私から贈る、愛してやまないお母様への最高の愛なの。