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第13話 夢物語を編ゆみし者



 結末を話す前に彼の体力が尽きるようだった。

 私は彼に急いで謝らなければならに事があった。


 彼等がキサキ君達が事故に遭ったのは偶然の出来事ではないと言う事だ。


 修学旅行が始まる前、彼らはある取引現場を偶然見てしまった。

 だから、私は彼等を確実に処分するためにバスガイドとしてやってきたのだ。


 私は彼等にとっての死神なのだ。


 くしくも、妃君が語ってくれた物語の彼女の様に。


 きっと、異端の研究者であったメグミがこなければ、キサキ達にあんな任務が言い渡される事はなかったはず。


 よくできた皮肉だった。


 何も知らない妃君から、そんな内容を語られるのは。


「妃君……」


 肩を揺すって呼びかけるが、血色の悪い唇からはうめき声しか聞こえない。

 時間はあまり残されていないのかもしれない。

 せめてこちらの言葉が聞こえている可能性があるうちに、と私は口を開くのだが……。


「姉さんは、生きてくれよ」

「妃君?」


 生きていた、という思いで見つめるが、幽かに開いている目の焦点は合っていない。


「逃げて、生き延びて俺達の分までしっかりと……。俺達がかなわなかった続きを紡いでいってくれ」


 私は分かってしまった。

 彼の魂はすでにもう、ここではないどこかへと運ばれつつあるのだろう。


「ええ、きっと必ず、貴方達の分まで。世界を変えてみせるから」


 私は妃君の手をとって、そう応える。

 彼の紡いだ夢物語の中の、メグミとして。


「貴方達みたいな子供が普通に生きていられるような世界にしてみせるから」


 冷えていくその手を私は最後まで握りしめていた。








 私の人生は生まれてた時から闇の中にあった。


 才能があって見いだされた私は、組織の一員として、汚れた仕事のこなし方を教わるだけのつまらない日々を贈っていた。


 表の世界に出る時の私は、全てが偽りだった。


 偽りの仮面を張り付けて過ごす日常は、傍にある様で遠くにあり、時折り無性に、普通の人生を送っている子供達が羨ましく思った事もあった。


 妬んだ事もあった。


 けれど、嫌いになりきることはできなかった。


 子供受けがいいと言われて、年下になる者達ばかりに相手をさせられたせいかもしれない。


 しかし、どんなにふれあっても、その世界は私の居場所になりえなかった。

 私にとって普通の生活は絵空事のもので、幻想の存在だった。


 私はけれど、そんな日常を甘受していた。


 私はそれ以外の生き方を知らないから、日常となってしまったその世界から出ていったら生きる方法が分からなくなってしまう。


 けれど……。


 私はその一歩を踏み出す事にした。


 夢物語を歩んだ(メグミ)を得て、二人分の生をもらった恵子(わたし)が編んでいく。


 彼等の覚悟を、思いを、無念をむだにしてはならないから。



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