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第12話 夢物語を編んでいく11



 巨大な蝕者を、迎え撃つと決めたキサキ達。

 そこからの行動の変化は早かった。


「じゃあ、張るぞ。うらっ」


 キサキは実戦用の規格の結界を周囲に張る。

 こうする事で、場が力を纏うようになる。

 研究者が開発した便利なものだが、キサキ達はまだ詳しい理論を習っていないので、ぶっつけ本番だった。

 しかし、結界は無事に作動。


 わずかだが、キサキ達に有利な地が掲載された。


 わずかな時間足をとめたにすぎない。

 だが、相手の足が速い。

 そうしている内に相手が距離を詰めてきた。

 

 脅威の接近を見て、キサキが指示を出す。


「火力担当! ぶちかませ!」

「「は、はいっ!」


 まずそこにミシバが大砲の滅具をはなって火を打ち込んだ。


「先陣、駆けろ」

「うらぁぁぁ!」


 そして、大剣をかついだカオルが向かって、他が援護の攻撃を放った。

 それからは怒涛の攻撃の嵐。


 ありとあらゆる滅具の攻撃や、力が相手を襲った。


 たった数秒の間に彼等は持てる全力をつぎ込んだようだった。


 しかしそれでも……。


「くそ、無傷か。おい諜報!」

「はーい」


 キサキが呼びかければ、どこからともなくユカリが出て来て顔を見せた。


「姉さん連れて逃げろ。俺達はここで可能な限り足止めする」

「ん……、仕方ないね。りょーかい」


 躊躇う素振りを少しだけ見せつつも、ユカリはその頼みを承諾。

 一瞬後に結界がとけた。


 焼け石に水だったが、確かにキサキ達を有利にしていた場がなくなっていく。


「ま、待って。キサキ君達は……」


 ユカリに背中を押されるメグミは、その場を離れる事をためらった。


 ここを離れたら、二度と彼等には会えなくなる可能性が高いと考えたからだ。


 そんなメグミに、キサキが笑って告げる。


「姉さん、俺達の分まで頑張ってくれよ。ユカリ、頼んだぞ」

「任せて、キサキ・テンジョウ君」

「最後だけフルネーム呼びかよ」


 敬礼をしてみせたユカリに腕を引かれて、メグミはその場から離れ行く。


 結界が、再び張り直された。







 メグミは、草や木根で溢れているこぼこ道を、転ぶように駆け抜けていく。


「どうして……」


 夢中で走りながらも、疑問の声を発していた。

 少しでも離れなければならないと頭では分かっていたが、心が納得できていなかったからだ。


「どうして、貴方達は……。未来があるのに、将来があるのに」


 メグミを先導する様に前方を走っていたユカリが答える。


「良いんですよ。メグミさん。私達は誰かを助けたくてこの道を選んだんですから、一人でも助けられるなら死んだとしても本望です」

「けれど……」


 ユカリの淡々とした言葉を受け入れがたい気持ちで聞く。


「貴方達はまだ、子供で」

「子供も大人も同じですよ。この世界は私達が大人になるまで待ってくれません。皆に平等に満遍なく不幸が降り注ぐ世界です。だから私達は「子供みたいな大人になって、何も成せないままでいたくない」から……「さっさと大人になって救えるものを確実に救っていこうとしてるんです」


 冷たいまでの現実的な考え方。

 ユカリの述べる言葉に、メグミは言い返せなかった。


「もしもそれが嫌だと言うのなら、メグミさん達が、生き残った人達が何とかしていってください。この世界を変えていってください。私達みたいな子供が、子供のままで安心していられる世界にしていってください。ほら……」


 足音を紛れ込ませるために川添いを走っていたユカリはその場に立ち止まって、滅具を構えた。

 諜報の役があるはずのユカリ。初めて見る彼女のそれは、とても巨大な敵に立ち向かう為の物には見えない、小さな杭だった。


「次は貴方の番です」

「待……」


 背中を押されて、メグミは川へと突き落とされた。

 流れのはやかったそこは、あっという間に人を押し流してしまう。


「頑張って生きて……」


 大量の水に飲まれて、上下が分からなくなる。

 どこかの岩にでも頭をぶつけたのかもしれない、意識が寸断される。

 その間際。

 最後に、そんな言葉が聞こえたような気がした。



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