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第10話 夢物語を編んでいく09



 緑が生い茂る草原。

 奥に見えるのは鬱蒼とした森だ。


 例の任務を引き受けたキサキ達は、指定されたその場所へと来ていた。


 表向きには実地訓練で蝕物の討伐となっているが、実際にはSSクラスへの無謀な特攻任務だ。


「俺達だけだから、って思ったから受けたんだけどなぁ。何で姉さんいんの?」


 しかし、その場のメンバーには何故かメグミ・ウェストナーまで含まれていたのだった。


「どうしてかしらね。案外成り上がりの新米研究者がうっとおしがった人達が、推薦してくれたのかもしれないわ」

「姉さん的にはそれでいいのかよ」

「私は研究者よ。個人の利より、全体の利を優先するわ。何が人類にとって最良か分かっているつもり」

「俺はそこまでなり切れねぇけどな。姉さんは、戦わなくていい研究者だろ?」

「そうね。でも、危険に遭う事なんてとっくの昔から承知している事だもの」

「今さらって事か。どんな環境で仕事してきたんだか聞いて良い?」

「長くなるわよ?」

「そりゃ残念だ」


 反対にメグミが今度は問いかける。


「キサキ君の方は?」

「俺達は卵といえど退魔士のはしくれだ。上から言い渡された任務を、えり好みなんてしてらんねーし」


 言い切ったキサキは周囲を見渡して、呟く。


「たぶんあいつらも同じ考えだろうぜ、なに。相手を確認したら倒すか逃げ切りゃ良いだけの話だ。何とかなるだろうさ」

「変わってるわね、キサキ君って」

「キリコにも毎回言われてる」


 そんな風に会話をすれば、任務を始める時間が訪れた。


 見送りについてきた担当教官が口をひらいた。


「さて、休憩は終わりだ」


 心強い事この上ない存在だが、しかし力を借りる事はできない。


 キサキ達とは違って貴重な人材であるため、任務開始後はすみやかに現場を離れるように言い渡されているらしい。


「ケツに卵のカラが付いた様なヒヨコ共を前線に送り込むのは少々気が引けるが、これが現実だ。潔く諦めろ。嫌だったら、死ぬ気で生き延びるんだな」


 かけられる言葉は非情で、それでいてキサキ達の良く知る教官のそのものの言葉だった。


「本日0900にて、訓練生による蝕物討伐の任務を開始する。諸君らは、くれぐれもエキストラを守り通してみせろ。森からもう一度、面ぁ出してみるんだな」







 鬱蒼とした森の中は、視界が効かないため、常に周囲に向けて気をはっていなければならない。


「ねー、キサキ」


 しかし、警戒しながら歩いていたキサキに、ミシバが話しかけて来た。


「またお前か、任務中の私語は禁止だって言っただろ」

「だってぇ」


 歯切れ悪く抵抗を示すミシバはよほど喋りたい事があるのか、「でも」とか「やっぱり」とかいう言葉を繰り返していた。


 その調子でずっといられても困ると思ったキサキは、仕方なしに何が話したかったのか聞くことにした。


「はぁ、何だよ。聞いてやるから手短に話せよ」

「っ、あのね。えっとね。キサキってカオルちゃんの事が好きなの?」

「ブフッ」


 その質問に過剰な反応を示したのは問われたキサキだけではなかった。

 周囲を歩いていたクラスメイト達やメグミが、居たたまれない雰囲気に包まれていく。


 特にカオルなどは、その反応が顕著で……。


「は、はぁ? 何言ってんだよ、ミシバ。そんなんありえねーって、だってキサキだぞ」


 そんな風にして怒鳴り声を上げていた。


「おい、任務中だぞ。帰ってからやれ」


 キリコが苦言を呈した事で、声のボリュームは小さくなったが、話題はそれで停滞したりはしなかった。


「ミシバ、それ今確認しなきゃならん事か?」

「うん、だってよく分かんないけど、すっごく気になるんだもん」

「それって、おま……。はぁー……」


 何かを言いかけるキサキだが、途中で諦めた様にうなだれて言葉の後半をため息へと変えてしまった。


「ミシバもカオルも友達。大事な仲間でダチだ、これで文句ないか」

「うーん、ちょっとすっきりしたかな、ありがとねキサキ」


 道場は、微妙な顔をしつつも、カオル共に雑談に興じ始める。

 そこに追加で二名。

 ユカリの話題を口にしながら、シオリが交ざりにいった。


 キリコがキサキの脇腹を肘で一回打って来たが、キサキは嫌そうな顔をするだけに留めておいた。


「キサキ君ってモテるのね」


 メグミの言葉だけは無視するのも躊躇われたのか、「ああ、まあ」と歯切れの悪い言葉を返したのだが。



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