はだかの王様、魔王退治に行く
あるお城に、わがままな王様がおりました。
「世界で一つだけの、ワシだけの服を着たいぞ!!」
大臣達は顔を合わせ、困った顔をしました。
とりあえずそれっぽいお触れを出し、しばし時を過ごしました。
「王様!」
大臣が慌ててやって来ました。
どうやら適当に出したお触れが当たったようです。
「王様だけに合う、世界一の服を御覧に……」
ちょいと胡散臭い仕立屋風の男が、頭を下げました。
「おお! はよ! はよ!」
王様は前のめりで目を輝かせました。
「これです」
仕立屋風の男がサッと何かを取り出しましたが、その手には何もありませんでした。
「……どれぞ?」
「これは愚か者には見えない、伝説の鎧です」
大臣達がどよめきます。彼らにもそれらしい物が見えていないのです。
「……大臣よ、どうだ? 先に感想を述べよ」
指を指された一人の大臣が、驚いたようにビクリと跳ねました。当然彼にも見えてはいません。
しかし、見えていないと言ってしまえば恐ろしい目に遭うと思った彼は、嘘を言いました。
「素晴らしいと思います」
引きつった笑顔で答えました。
「他の者はどう思う?」
「右に同じく」
「同じく」
「以下同文」
「禿同」
大臣達が拍手をしました。
大臣達が見えているのに、王様自らだけが見えていないと言うわけにもいかず、王様もまた嘘をついてしまいました。
「うむ! 吾輩も同感である!」
仕立屋に袖を通して貰い、王様は上機嫌で笑いました。
「伝説の兜と、伝説の盾もあります」
「うむ! つけようぞ!」
仕立屋に着けて貰い、王様は凛と身構えました。
「うむ! 軽いぞい!」
「後は伝説の剣を持てば……」
「おお!」
愚か者には見えない剣を手渡された王様が、演舞を始めましたが、どう見てもステテコ一丁でアホな踊りを披露するオッサンにしか見えません。
「ちと魔王を討伐して参るぞ!!」
「行ってらっしゃいませ!!」
すっかり気を良くした王様は、そのまま城の外へと出て、魔王の城へと歩き出しました。
が、夕暮れ時に木槌を持った覆面モンスターに襲われ痛恨の一撃の前に息絶えてしまいました。
お城には平和が訪れましたとさ──