学校の七不思議編 〜夢トイレ〜
マリオンは一人っきりになることが好きでした。
押しつぶされそうな壁と天井、
圧迫感の箱のような所でじっとしているのがとても好きなのです。
きっと、彼女は棺桶に入れられてもにこやか笑みを浮かべることでしょう。
でも、ここは学校。
他人がいる場所、誰かがいる場所、動くものがいる場所、一人にはなれない場所。
だから彼女はいつも心の壁の圧迫感で安心しているのです。
素手で心臓をつかむぐらいの圧迫。
「アハハ〜な〜にしてんの〜♪」
心臓が握りつぶされた。
心の壁を凶器に変えるのはいつもアリスだった。
「う・・・うん・・・絵・・・書いたの」
マリオンはノートに書かれた絵を彼女に見せた。
「今日見た夢・・・覚えていたから・・・書いたの・・・楽しい夢だったから」
「そっ」アリスは絵をじっと見つめ「3Dメガネを買わなきゃダメかな・・・」目頭を押さえて「うぅ・・・目に悪い絵ね。なに書いたの?」
「・・・海」マリオンは少し嬉しそうに言いました「何処かわからないけど・・・海の真ん中にいたの・・・誰もいない・・・私一人・・・ぷかぷか浮いて・・・海に潜るの・・・魚も人魚もなにもいなくて・・・私一人・・・とても安心・・・でも苦しくなって浮かんじゃって・・・でもね、私何度も潜り返したんだ・・・だってね、とってもリラックスできるんだよ、気持ちいいの・・・うん・・・でね・・・今度はもっと深く潜ってみようと思ったんだ・・・苦しくなっても深く・・・呼吸が止まっても深く・・・身体が止まっても深く・・・もうすぐ海の底かなって思った時・・・目が覚めちゃって・・・」
マリオンの話を聞き終わったアリスは感慨深げに「それでオネショをしてしまったわけだ」
「えっ? 違うの? 水モノの夢と言ったらオネショが相場じゃない? 違うの? そっ」
ブンブン首を振るマリオンの風を感じながらアリスは手を叩いた。
「えっ・・・その・・・どうしたの」
「思いついたの、七不思議の一つを」
マリオンの顔がとたんに青ざめる。
「アハハ〜、大丈夫心配しないで。今度は夢の話なの、聞いてくれる?」
学校にね身体の発育だけが良くて頭が夢見がちなバカ女がいたの。
まぁ、黙ってて聞いて・・・聞きなさい。
そのバカ女は夢を見た、海の夢、海に潜る夢、一人っきり、彼女にとって楽園の夢。
じゃあさ、そのバカ女の現実は? 彼女は夢を見ているとき何をしているのだろう。
ベットの上で寝ている? 安らかな寝息を立てて? 違う!
楽園の夢、現実逃避したいぐらいの夢、バカ女の夢!
バカは逃げたかったの、だから夢を見た、海の夢。
夢と現実は密接な関係にある、だから現実の彼女は水の近くにいた。
どこだ? トイレだ!
狭い空間に閉ざされたトイレに彼女はいた。
何をしている? 溺れていたの!
どうやって? 汚水まみれの詰まったトイレに顔を突っ込んで!
誰と? 一人っきりじゃない、誰か別の人間と!
ねっ・・・落ち着いて聞いて。
誰かにバカ女は髪をつかまれていた、汚水のあふれた便器に何度も顔を突っ込まれたの。
苦しそうね、でもその誰かは生かさず殺さずじっくりと繰り返したの。
えっとね、ほかに描写を付け加えるならね。
顔は真っ赤にはれててブドウみたい。あら少し頭皮がはがれてるわね・・・よく見せて・・・誰かが髪の毛を強く引っ張ったからね、可哀そうに。爪が剥がれているわよ、早く病院へ行った方がいいわ。
これぐらいでいいかな・・・でね、その誰かは最後にあなたの顔を汚水に押し付けた。
もう動かない、もう浮かびあがらない。
あなたが苦しくてどんなに暴れても、呼吸ができなくなっても、身体が動かなくなっても。
だからあなたは夢を見たの、
綺麗な海、一人っきり、楽しいでしょう、目が覚めて、学校に来て今私と話をしている。
「遠い現実と今ある夢、マリオンはどっちがいい?」
アリスはケラケラ笑っています。
「ゆ・・・夢がいい・・・」
「なら、夢が覚めないように願うことねアハハ〜」
マリオンは自分のほっぺに触りました。
つねる勇気はありません。