学校の七不思議編 〜動く手〜
アリスの学校にはとても優しい男の先生居ました。
顔がよくて、体つきもよくて、頭もよくて、
「生徒は俺が守る」なんて真顔で言う所があるから、生徒や他の教師に人気があって。
アリス以外みんなその先生の事が好きでした。
でもね、その先生ひとつ変な所があって、
いつも右腕を包帯でぐるぐる巻きにしているんです。
動かないぐらい分厚くグルグル巻きに。
先生が言うには、
「エイリアンハンドシンドロームって言葉を知っているかな、体の一部が自分の意志とは無関係な行動をしてしまう病気なんだ。長いこと患っていてね、僕は君たちを傷つけるわけにはいかないから、こうやって動かないようにしているわけさ」
とのこと。
「い〜け〜好か〜な〜い」
アリスはその先生を見るたびに腐ります。
マリオンはその先生を見るたびに顔を赤らめます。
「好きなの?」アリスは尋ねました「まっ、いいわ。その顔見ればわかるから。そうね私も実は興味があるの・・・アハハ〜、包帯の下の事だよ。エイリアンを見たいと思わない?」
「えっ・・・うん・・・」
「じゃあマリオン。告白しちゃいなさい、好きですって、愛してますって、付き合ってくださいって。そして裸で迫る・・・アハハ〜、それでね相手が‘うん’と言ったら、それじゃぁ愛の証に右腕の包帯を見せてくださいって言うの」
「う・・・あ・・・いや・・・」
「いじめられたい?」
「あ・・・いや・・・」
そして二人は放課後を待つことになりました。
夕暮れ時、先生は来ました。
教室にはマリオンと先生二人っきり。
彼女はあわてて、衣服を脱ぎ始めました。
先生は言いました「やめなさい」「だめだ」「服を着なさい」
そんな事を言いながら、彼は彼女に近づきました。
先生の左腕がマリオンの肩をつかみ、顔を近づけたその時、
「がぁ!」
包帯の巻かれた右腕が、先生の顔面を殴打しました。エイリアンが暴れだしたのです。
右腕は先生のあらゆる所を殴り始めました。
標的は先生だけではなくマリオンにもおよび、彼女を突き飛ばした。
「生徒は・・・俺が・・・」
怒り狂った先生は右腕の肩の付け根を左手でかきむしり始めました。
「こいつさえいなければ、こいつさえいなければ、こいつさえいなければ・・・」
皮膚をむしり、筋肉をむしり、血管や神経をむしり、
肩の骨が出てきて、関節を外して、それでやっと先生と右腕は止まった。
マリオンは逃げ出した。
先生は血を多く流して死んでしまいました。
「動き回る腕の妄想に取りつかれた教師・・・いいね、七不思議にいただきね♪」
アリスは楽しそうに学校の提示版に書き込んでいます。
今度は新聞部に入るみたいで・・・
赤い目のマリオンはつぶやきました「先生が・・・守ってくれた・・・」
「そんなわけないでしょ」アリスは即座に否定します「あなたに近寄ったのは彼の両足、あなたをつかんだのは彼の左腕、あなたの唇を奪いそうになったのは彼の唇、あなたを突き飛ばしてくれたのは彼の右腕・・・マリオンを守ったのはエイリアンなの」
アリスはケラケラ笑いながら言葉を続けます。
「『生徒は俺が守る』なんて言ってる時点で独占欲を見せびらかしているようなものじゃない。彼は遊び人、生来の遊び人、そんな彼を抑えていたのがエイリアンハンドシンドローム。きっとね・・・先生に残っていた正義の心だったんでしょうね〜」
「・・・」
「マリオンも悲劇のヒロインみたいな状況になってよかったでしょ? それともヤラレチャッテタホウガヨカッタ? アハハ〜」
マリオンの両手がスッとアリスの首に触りました。
アリスはただ冷静に「絞めるの? いいよ」
私の悪い心。
ほんの少しの間だけでいい、私の両手に集まって。