第九十九話
2024/11/09 一部を修正、加筆しました。
[第九十九話]
そんなこんなで帰宅して、時刻は十六時半。
さて、今日も[AnotherWorld]やっていきますか。
『チェリーギア』を装着しながら、俺はこれからやることを考える。
今日はセロトニカさんに話を聞いた後に、アロハリュウグウに行ってみよう。
白い光に包まれると、視界いっぱいに東門が現れた。
ログイン成功。早速、セロトニカさんに話を聞こう。
検問している人は別の人だったので、騎士団の詰め所まで行きドアをノックする。
「はい、どうかなさいましたか?」
これまたイケメンな男性騎士が出てくる。
「セロトニカさんはいますか?少し話したいことがあるのですが……」
そう言うと、騎士さんは察したのか……。
「ああ……、分かりました。少々お待ちください」
と奥に引っ込んだ。
数秒間入り口で待っていると……。
「はーい、お待たせしました~」
とセロトニカさんがやってきた。
「それで話したいことって、なにかなー?」
開口一番、白を切るセロトニカさん。
ネタは上がってるんですよ。
「灯台の件です」
「……外で話そっか」
こちらが話を切り出すと、途端に真剣な顔つきになった彼女は、体を外に出しながらそう言った。
「それで、やっぱり見たのかい?幽霊ってやつを」
外に出て、東門の外壁に寄りかかりながら話し始めるセロトニカさん。
「とぼけないでください。ミオさんって呪いのこと、セロトニカさんは最初から知っていたでしょう」
「ばれたか」
ミオさんの口からセロトニカさんの名前が出てきた時点で、二人の間になにかつながりがあると確信した。
「実は、東門防衛隊の中で代々、灯台の話は浸透していてね。強くて信頼のおける冒険者だけにミオから話を聞いてもらって、ココデクラーケンを倒しに行ってもらおうっていう、計画というか取り決めというか、そういうのを百年前に作ったんだ」
「なんで冒険者なんです?騎士団で討伐隊でも編成すればいいでしょうに」
「それがそうもいかないんだよ。我々が無類の強さを誇れるのは戦いやすい陸上だからであって、海上ではそうはいかない。しかも相手は未知の強さを誇る悪魔ときた。我々が手に負える存在じゃないと判断したのさ」
そう説明してくれるセロトニカさん。
しかし、どうも腑に落ちない。
「それでもやってみる価値はあると……」
「負けたんだよ」
「え?」
「歴史上は無敗を誇っている騎士団の討伐隊が、いとも簡単に全滅したんだ。船を簡単に沈められたからっていうのもあるんだけど、百年前の騎士たちはやつに手も足も出なかった。だからミオの存在も含めて、灯台のことはここまで内密にしてるのさ」
彼女は両手に握り拳を作りながら、吐き捨てるように言った。
なるほど。大敗を隠蔽して歴史を作ってきたわけだな。
「そのことが聞ければ満足です。決して油断ならない相手であることを再認識できました」
そんな彼女に対し、俺は当たり障りのない言葉を並べ立てる。
「東門防衛隊隊長にここまで言わせたんだから、必ず、倒してきてね」
「もちろんです」
震えながら、ゆっくりと差し伸べられた手。
俺はその手をがっしりと握り、約束の握手を交わすのだった。
って、防衛隊隊長?
※※※
セロトニカさんから納得のいく話が聞けたので、次はアロハリュウグウだ。
一度中央広場に戻ってから、南の大通りを伝って南門を目指す。
ここら辺も繁盛しているな。リュウグウが近いからか、魚の肉や素材を売っている魚屋が多い。
そんなこんなで南門に着いた。
検問の担当は眼鏡をかけた、これまたイケメンなナイスガイだった。
「きみがトールくんだね。噂は聞いているよ。私はアラニア南門防衛隊隊長、ケール・ブルーリキだ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします。水魔法使いのトールです」
少々面食らってしまったが、ケールさんは俺のことを知っているようだ。
そんなに有名になってしまったか?
「いや、騎士団の中でもきみは有名だよ。新進気鋭の冒険者がいるとね」
ケールさんは眼鏡をくいとさせて言う。
またナチュラルに思考を読まれてる。
「メガロドンもどうにかしてくれたそうじゃないか。正直、私が行かなくてよかったと思ってるよ。私でも手に余る相手だったと思うからね」
メガロドンの件も、流石に耳に入ってるか。
「ま、アロハリュウグウに行くとしても、その先のカンカン大砂漠に行くとしても、きみの実力なら問題ないね。頑張って」
「ありがとうございます。失礼します」
ただの冒険者である俺を気遣ってくれるなんて、良い人だな。
俺は一礼して彼と別れ、南門から平原へと出るのだった。
※※※
平原を駆け抜けアロハリュウグウに到達すると、相変わらず波打ち際には遊泳禁止の看板が立てられていた。
ということは、まだ魔物が戻ってきていないのか?一応漁業組合に話を聞いてみるか。
俺は海の家に行き、潮風に曝されたドアを開ける。
「おう、トールじゃねえか、二日ぶりだな!」
正面の談話スペースにホランスさんがいた。
忙しいであろう彼がここで暇しているということは、やっぱりまだメガロドンがいるのか?
「ちげえちげえ、今は様子見してるだけで、あれからメガロドンは出てねえから、そんな顔すんなって!」
不安な表情をしていたのだろうか、俺の疑問をくみ取って応えてくれるホランスさん。
なんだ、そうだったのか。
「あれからメガロドンが出たのか聞きに来ただけか?まさかそんなわけねえよな!」
どうやら、ホランスさんにはお見通しのようだ。
「ええ、海の中で狩りをしに来ました。漁業組合としては、俺が一人で狩りをしても大丈夫ですか?」
漁場を荒らすことになるからな。
ここは訊いておく。
「おう、どうせ俺たちはなにも出来ねえからな、好きに狩りしやがれ!もっとも、魔物が全然いないから大砂漠に行った方がいいかもしれねえがな!」
え、そうなのか?
「そうだ。二日経ったが、魔物の数は全然回復してないな!ま、一度乱れた生態系はそう簡単に元に戻らないってことだな」
彼にとっては死活問題だろうに、すっかり落ち着き払っているホランスさん。
本当に申し訳ないです。うちのオトヒメが。
「じゃあカンカン大砂漠まで泳いでいくことにします。ありがとうござい……」
「待て待て!向こうまでは結構距離があるから、うちの船に乗って行け。若えもんも暇してるからな!」
いいのか?じゃあお言葉に甘えるとしよう。
「それは助かります。ありがとうございます」
「そんじゃ、早速準備だ!おめえたち、取りかかれ!」
ホランスさんの号令とともに、いつの間にか集まっていた船乗りのおじさんたちが「おうっ!!」と掛け声を上げるのだった。
※※※
「おう、着いたぜ、トール!」
魔導漁船に揺られること十数分。俺と船乗りさんたちは砂の大地に到着した。
すごいな、一面の砂。ここは海抜が低いから遠くまでは見えないが、見渡す限りの砂景色だ。
「すごいだろ!ポカンと口開けてると砂が入るぜ!」
ホランスさんに言われ、慌てて口を閉じる。
「ここから三十分くらい歩けば『オアシス』に到着する。とりあえずそこ目指して行きな!」
『オアシス』?
「そういう名前の小さな村だ。テレポートクリスタルもあるから、寄っておくのが吉だぜ!」
テレポートクリスタルとはその名の通りだが、転移が可能な水晶のことだ。王都やアラニアの中央広場に埋め込まれているものとなっている。
「じゃあな、頑張れよ!帰りは送ってやれねえから、転移で帰ってこいよ!」
「ありがとうございました!」
俺は去り行く船に手を振り続ける。
ホランスさんの乗った漁船の姿は小さくなっていき、やがて見えなくなった。
さて、それじゃあ攻略最前線とされるカンカン大砂漠に挑むとしますか。
俺は額の汗を拭いながら、西日の差す砂漠に一歩を刻むのだった。




