第九十七話 『ソノトウダイノチョウジョウニハ』
2024/11/09 一部を修正、加筆しました。
[第九十七話] ソノトウダイノチョウジョウニハ
時刻は二十時半。
夕食と入浴を済ませ、俺は再び[AnotherWorld]にログインした。
ちなみに晩ご飯は鶏の唐揚げだった。アツアツのご飯とジューシーな唐揚げが絶妙にマッチしていておいしかった。
と、それはいいとして……。
冒険者ギルドの景色が見えると、もうすでに二人は来ていた。
「また最後だったな、トール」
「いつもぎりぎりに来るのかい?だらしないですねえ、トールくんは」
二人に言いたい放題言われる。ぴったり来たんだからいいだろ。
「とにかく、東門に行くぞ。セロトニカさんは知ってるよな?」
「ああ、知ってるぜ!」
「あの眠そうな女性だよね」
だったら、二人とも灯台はまだ早いと言われた口か。
ま、そりゃそうだよな。言われてなきゃ依頼やろうと思わないし。
「それじゃ、東門に行こう」
「おー!」「もちろんさ」
ハチとサソリの狩りをしたのに、二人の返事はまだまだ元気だ。さすがゲーマーである。
早速二人を伴ってギルドを出、東門を目指して歩き始める。
「そういえば、二人はなにか生産活動をしているのか?」
暇になったので、二人に訊いてみる。
「俺はからっきしなにもやってないな!戦闘ばっかだ!」
だろうな。
周辺のフィールドの魔物のことまで知っていたことからも、狩りへの情熱が感じられる。
「僕はスクロールの執筆かな。執筆用のペンは高かったけど、スクロールがそれなりの値段で売れるから元が取れるといった感じ」
執筆か。サキさんと同じだな。
「それなら、フクキチに頼んで卸してもらえばどうだ。たぶん高値で買ってくれるぞ」
「そうなのかい?じゃあ今度紹介してくれるかな?ぜひお願いしたいよ」
こうやってフクキチを紹介してあげるのも、ビジネスパートナーとしての役目だろう。
そんなこんなで色々話していると、東門に着いた。
以前会ったときは眠そうにしていたセロトニカさんだったが、きちんと夜の検問にいてくれた。
俺は彼女に話しかける。
「あのう、そろそろ灯台の件について伺いたいのですが……」
「あ~、昨日の水魔法使いくんに熱血の剣士くん、クールな風魔法使いくんじゃないか。きみら友達だったんだ。それで灯台の件ね……」
そう言って彼女は手元のバインダーを眺める。
「あった。トールくんはウルフの群れ討伐、アロハリュウグウのメガロドンにも噛んでいたみたいだね。ライズくんはヒドゥンワスプ討伐を含め数々の依頼解決。フーライくんはクイーンスコーピオン討伐。すごいね、三人とも」
褒められてまんざらでもない俺たち。
「これなら任せられそうだね。ちょっとこっちに来て」
セロトニカさんはそそくさと、俺たち三人を通りから外れた外壁沿いに誘導する。
なにかありそうな気配を感じた俺たちは、黙ってついていく。
「実はあの灯台にはね、幽霊が出るとされているんだ」
出た。
また古代の悪霊とか、そういった感じのものなのだろうか?
俺の疑問が顔に出ていたのだろう。セロトニカさんは答えてくれた。
「あの灯台が作られたのは現代になってからだから、古代の曰くとかはないよ。トールくんは王都の方で騒動に巻き込まれたみたいだけど、ああいったことではないと思うんだ」
騒動というのは、フランツさんと一緒に片づけた『ゴースト・メカトニカ』のことだろう。
騎士団には共有されているのか。
「ああ、なんでもないよ。こっちの話だからね」
置いてけぼりになっているライズとフーライを見て、セロトニカさんは話を戻す。
「その幽霊は決まって灯台の頂上、外からも見えるんだけどね、に現れるんだ。灯台ができてから数十年はそんなことはなかったんだけど、ある日急にね、女の人の幽霊が出るようになったんだ」
そうおどろおどろしくセロトニカさんが話すと、二人が震え上がった。
なんだ二人とも、怖いのが苦手なのか?
「それで管理をしている人が怖がってしまって、東の海を照らす道しるべとなっていた灯台が封鎖されることになったんだ。今から百年ほど前の話らしいけど、それが原因で東の海での航海が難しくなり、王都での漁業が衰退してしまったんだ」
なるほど、灯台がないと航行が難しいレベルの絶海ということだな。
そんな海に航海初心者の俺たちが挑んでいいのだろうか。
新たな不安が生まれたところで、セロトニカさんが迫真の演技で切り込んでくる。
「だから、幽霊の謎を解ければ、王都の漁業は復活するかもしれないんだ。王都の漁業復興がきみたちに委ねられたといっても過言ではないんだよ」
なるほどなあ。そういう事情があったのか。
ライズとフーライは得心がいったという顔をしている。おそらく俺もしているだろう。
「で、これがその灯台の鍵だ。一つしかないから、なくさないでくれよ」
そう言って俺に鍵をくれるセロトニカさん。
なんで俺なんだ?
「一番怖がりじゃなさそうだから」
確かに、それは言い得て妙だな。
「とにかく。任せたよ、三人とも」
セロトニカさんに王都の運命を託された俺たち三人は、とりあえず難しい顔を作りながら平原へと出るのだった。
※※※
数十分後。俺たちは東の灯台へとやってきた。
「着いたな」
「ああ……」
「幽霊がいると言われたら、なんだか不気味に見えるね……」
二人は気乗りしないようだ。
俺の後ろに隠れて、ガタガタ震えている。
「怖いのか?」
「そ、そんなわけないでしょうトールくん!」
「実体がないモノは切れないからって、怖いわけじゃないぞ!」
これは怖がっているな。果たして使い物になるだろうか。
「じゃあ、ここで待ってるか?」
「「行く!!」」
まったく、返事だけは一丁前なんだから。
俺は呆れつつ、扉の鍵穴に鍵を差し込む。
がちゃり。
意外と奇麗な音を立て、入口の扉が開いた。同時に後ろの二人が驚く。
「扉を開けただけだろ。……それにしても、暗いな」
中は真っ暗だった。松明でも持ってくればよかった。
「松明ならあるぞ、ほれ」
そう言ってライズが俺に渡してくる。
持ってるなら先導してくれよ。
仕方がないので明かりをつけ、前に進む。
「ていうか幽霊が出るのは頂上だから、頂上までは安心していいんじゃないか?」
と二人に言うと途端に……。
「なあんだ、そうだったのか!早く言ってくれよ!」
「ま、僕は初めから怖がってなんかいないけどね」
と、意気揚々と前を進み始めた。
さっきセロトニカさんが説明してただろ。とため息をついていると……。
「キシャアアアアッ!」
前方からコウモリが現れた。
「ありゃケイブバットだな。洞窟とか暗いところに住んでるでかいコウモリだ。『スラッシュ』!!」
ライズが一太刀で倒す。
弱いな。
「ここは暗いですから、バットたちが住処にしているようだね。……『ウインド・アロー』」
続けて現れたコウモリも、フーライが瞬殺する。
「『アクア・ボール』、ふう。それにしても数が多いな」
「キシャアアアアッっ!!」
行く手を立ち塞ぐように、何匹もやってくる。
まあ、倒すのに苦労しないので楽ではあるが。
〇アイテム:ケイブバットの牙
洞窟や暗所に住むケイブバットの牙。鋭利だが、少し小さい。
〇アイテム:ケイブバットの爪
洞窟や暗所に住むケイブバットの爪。鋭利だが、小さすぎるので使用用途は限られる。
〇アイテム:ケイブバットの翼
洞窟や暗所に住むケイブバットの翼。伸縮性に優れ、服飾によく用いられる。
「『サンダー・ボール』。あそこに階段があるね」
しばらくコウモリを倒していると、フーライが階段を見つけたようだ。
いつまでもコウモリを相手していてもきりがないので、さっさとそちらに向かう。
階段を昇ると、二階にたどり着いた。
ここにもバットの群れがいるので、まとめて片付けてしまおう。
「『アクア・ウェーブ』。どうだ?これで片づいたか?」
「鳴き声もしないし、片づいたみたいだぜ!」
「じゃあ、一応ここの探索をするか。なにかあるかもしれないし」
「そうだね」
ということで色々探してはみたものの、海を眺めるための望遠鏡とベンチがあるくらいで、めぼしいものはなかった。
「高さから推測するに、次が頂上みたいだ。覚悟はいいか、二人とも?」
「こうなったらやけくそだぜ!幽霊でもなんでもいいからかかってこい!」
「僕も心の準備はばっちりさ……!」
そう言いつつも俺を先頭にする気満々である。
二人とも上に上がる階段に近づこうとしない。
「はあ、じゃあ行くぞ」
俺は階段を一歩ずつ踏みしめていく。
かつーん。かつーん。かつーん。静かな夜に響き渡る足音。
やがて後ろのメンバーの音も加わり、次第にうるさくなっていく。
そして歩くこと三十段くらいだろうか。
ようやく頂上にたどり着いた。
潮風がすごい。途端に染まる一、二階とは違った夜の闇に、目が少し慣れない。
アラニアと東の海の景色を一望できる吹きさらしの頂上はドーナツ型のよう形をした通路で構成されており、中央部分には台がある。この台に火をともすことで、灯台としての役割を果たすのだろう。
「なあんだ。風がすごいだけで、なにもないじゃないか」
『ようこそお越しくださいました。勇敢なる冒険者様方』
フーライが減らず口を叩いた瞬間、急に中央の台から頭の中に直接語りかけてくるような声が響いた。
「「ぎゃああああああっ!」」
ライズとフーライは同時に叫び声を上げる。
まったくもって情けない。
『私の名はミオ。この灯台を封鎖している幽霊そのものです』
幽霊、ミオが自己紹介してくれる。律儀だな。
『あなた方はセロトニカに認められるほどの実力者。それならば、話す価値はあります。この海に起きた悲劇について』
なんだなんだ。説明してくれるのか。
それにセロトニカって言ったな。この灯台は百年前から封鎖されているのに、どうして彼女の名を知っているんだ?
俺の疑問に構わず、ミオは話を続ける。
『もともと王都東の海、ココデ海は豊かな漁場と盛んな航海が行われていた海でした。しかし、今から百年前、この海に恐ろしい悪魔が住み着いたのです』
悪魔。
また、悪魔かよ。
『その名も、ココデクラーケン。十本の触手を持った化け物です』
九本の尾の次は十本の触手か。
『このクラーケンに何隻、何十隻もの船が沈められました。しかし当時は航海の技術も未熟で、それがクラーケンによるものだと知る者はいませんでした』
なるほど。それからそれから?
『そして船乗りだった私の父も帰らぬ人となり、それが騎士団の調査により魔物のせいであることが判明すると、私は決心しました。命を賭して、この灯台に呪いをかけようと。そして二度と、ココデ海で命を失う人が出ないようにしようと』
そりゃまた、すごいことするな。
『当時は、灯台が機能しなければ航海はままなりませんでしたから、私はここの頂上から身を投げ、灯台に住まう幽霊となったのです』
ほえー、そんな事情があったんだな。
ところで、さっきから後ろの二人の反応がない。
振り返ってみる。二人とも白目をむいて気絶していた。
「はああ……」
なんのために来たんだよ二人とも。
気を取り直して、俺はミオと会話を試みる。
「それで俺たちになにをしてほしいんだ?そのココデクラーケンを退治してほしいのか?」
『単刀直入に言うと、そうです。この海を鎮めてほしいのです』
お、会話ができるのか。こりゃあありがたい。
「分かった。必ず、その悪魔を倒してみせる。ところで知らないかもしれないが、そいつの弱点とかは知っているのか?」
『申し訳ありません。なにぶん姿を遠目で見たことがあるだけですので、弱点と言えるようなものは分かりません。ただ……』
「ただ、なんだ?」
『クラーケンは百年前、急にこの海域に現れました。考えづらいですが、もっと強大ななにかに追われて逃げてきたのかもしれません』
もっと強大ななにか。
心当たりしかない。おそらく、オトヒメだろう。
「ありがとう。……で、そいつを倒せば、ミオさんは呪縛から解放されるのか?」
『ええ、そうです。私は役目を終え、成仏できるでしょう』
「なるほど、分かった。絶対に楽にしてあげるからな」
俺は台に向かってガッツポーズをする。心なしか彼女が微笑んでくれたような気がした。
『頼りにしています。あなたには心強い加護があるようですし、きっと成し遂げられます』
そう言葉を残すと、ミオさんの不思議な気配は消えた。もう話すことはないようだ。
さて、大変な依頼を任されてしまったな。
俺は二人をひきづって灯台の入口に戻りながら、航海が波乱なものになることを危惧するのであった。




