第九十五話
2024/09/18 一部を修正、加筆しました。
[第九十五話]
さて、[AnotherWorld]の世界にログインした俺。
忘れないうちに熊の討伐報告をシャーノさんにしないとな。
アラニアの北門でログインした俺は、外に向かう形で検問を受ける。
「……よろしくお願いします」
今日はクララさんじゃなかった。ちょっと残念だ。
と、そんなことを考えている暇はない。時間は有限だ。はやく行こう。
いつものように平原を駆け抜けながら、果樹園を目指すこと数分。
特に何事もなく、目的地に到着する。
建物の扉を開けると、意外な人物がいた。
「あ、トールくんじゃないか」
「げ」
フーライだった。なぜかシャーノさんと話している。
「なんだい、トールと知り合いなのかい?……お、それはタラフクベアーの牙!ということはトール、あんたが討伐してくれたんだね!」
シャーノさんが俺の取り出したタラフクベアーの牙に気づいたようだ。
同時にフーライが歯を食い縛る。
「ぐぬぬ、一足遅かったか。今シャーノさんからクマの件について聞いたのに。これは僕の負けだな」
だから、負けとかないだろうに。
それになんだ、「ぐぬぬ」って。聞いたことないぞ。
「惜しかったねえ、フーライ」
悔しがるフーライを見かねて、フォローを入れてくれるシャーノさん。
完全に気を遣わせてしまっている。
「依頼達成の確認ができたからね。十万タメルだよ。はい、確かに払ったからね」
「ありがとうございます」
そんなフーライの横で報酬をもらう俺。
なんだか当てこすりのようになってしまった。全くそんなつもりはないのだが。
「……報告は済んだかい、トールくん。なら、僕はトールくんと少し話があるので失礼させてもらいますね、シャーノさん」
「え、ちょっ」
そう言って強引に建物から引きずり出された。
俺は話なんてないが。
「そんなに引っ張るなよ。話なら聞いてやるから。なんなんだ?」
強引に引っ張る手を振り払い、フーライに聞いてみる。
「トールくんはご存知だと思うけど、一応聞いておくよ。アラニア東部の灯台を知っているかい?」
「ああ、カギがかかっているところだろ」
「そこに入るためには冒険者ギルドで実績を積まないといけないんだけれど、たった今その一つをふいにされた。この意味は分かるね?」
ふいにされたって、いくらフーライでもあのカップルのクマを倒せてたかどうか分からないぞ。
まあ、いいか。彼の頭の中では、クマ三頭撃破は実績の一つになっていたらしい。
「つまり、どういうことだ?」
「だから、僕と一緒に依頼を受ける義務が発生したということだよ!トールくんにはね!」
えええええええ!?一体どういう理屈なんだ?
……まあ、いいか。暇だったし。
俺は彼に対する一切のことを諦めている。相手には常識が通用しない。
「お、面白そうなことになってんじゃん!」
ここで、更なる闖入者が来た。
ライズ?どうしてここに。
「斬属性がバタフライの幼虫に相性がいいから、駆除を手伝ってるんだよ!今日もそのつもりで来たけど、二人は?」
なるほど。
ライズは俺の心を読んで応えてくれるので、ありがたい。
「僕たちはこれから依頼を受けに行くつもりさ。そうだ、ライズくんも一緒にどうだい?」
「もちろんいいぜ!」
ラーバを駆除しに来たらしいのに、二つ返事で了解していいのだろうか。
まあ、いいか。本人がいいって言ってるんだし。
「そうと決まれば、行くよトールくん!」
「即席パーティもオンラインゲームの醍醐味だよな!」
こうして、若干投げやりな俺と、やる気満々の二人との依頼遂行の旅が始まるのであった。
※※※
「そうだ!俺がすでに受けている依頼を三人でやるっていうのはどうだ?中々歯ごたえのあるやつだぞ」
なぜか得意げになって言ってくるライズ。
魔物が強くても、別にライズが誇れるわけじゃないと思うんだが。
「どんな魔物です?」
「今共有するから待ってな。……ほれ」
ライズが依頼ウインドウを共有してくれる。
ここでの共有というのは、あくまで一緒に依頼内容を見るという意味の共有であって、依頼自体の共有ではない。つまり、俺とフーライは今依頼を受けていない状態ということだ。達成しても報酬を受け取れるのは依頼を受けた者だけとなる。
まあ俺とライズの仲だし、損得勘定はなしでいこう。
ちなみに、依頼はこんな内容だった。
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[依頼]:タラフク果樹林におけるヒドゥンワスプ十頭の討伐
〇発注者:カロロ・キアラ
〇報酬:10000タメル
〇詳細:アラニア騎士団北門防衛隊隊長のカロロだ。今日は冒険者の皆に折り入って相談がある。
最近タラフク果樹林で、旅人たちから「見えないハチに刺された」という報告が多数寄せられた。
これはおそらくヒドゥンワスプによるものだと思われる。
これ以上被害を出さないためにも、至急十頭ほど討伐に向かってほしい。
討伐証明は必要ない。くれぐれもよろしく頼むぞ。
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カロロ・キアラ。もしかしてクララさんのお父さんかお兄さんではないか?挨拶に向かった方がいいのでは?
それに、ヒドゥンワスプというのが、前に俺が刺された見えないハチの正体だろう。
「見えない相手らしいが、なにか対策してあるのか?」
俺は気になったので、ライズに聞いてみる。
「そんなものはない!」
ええ?
「いると分かったら、そこら辺を適当に切りまくればいいだろ!」
ええ?
「フーライはどう思う?」
先行きが不安になってきたので、フーライに聞いてみる。
「えっと、そこら中に魔法を打てばいいんじゃないかな?」
ダメだ、終わった。
俺がなんとかしないと。
「まあ、とりあえず行けばなんとかなるだろ。行こうぜ!」
なぜか気楽なライズを先頭に、俺たちの旅が始まるのだった。
※※※
「ここら辺なら果樹園の邪魔にならないだろ」
しばらく歩いたところで、果樹園のシャーノさんに気を利かせてライズが言う。
「そうだね。早速採取ポイントを探るとしよう」
フーライはそう言うと、近くの木の根元をまさぐり始めた。
ヒドゥンワスプは多分、通常のハチが出ると確率で湧く仕組みなんだと思う。だから今フーライがしているように、ポイズンワスプを呼び出せばいい。
でも一回でハチが出るとは限らない。他の木も漁る必要が……。
なかった。
ブウンッ、ブウウンッ。
ポイズンワスプの羽音だ。
まさか一回でハチを呼び寄せるとは、なんという強運の持ち主だ、フーライ。
「出たよ、『ウインド・カッター』!」
「『クレセント・スラッシュ』!!」
湧いて出たポイズンワスプの群れに対して、範囲攻撃の『ウインド・カッター』と『クレセント・スラッシュ』を繰り出す二人。
ハチを次々となぎ倒していく。
俺も負けるか。力を貸してくれ、バーネスト!
『はいはい』
「ふううううっ」
俺は二人に火がかからない範囲で炎を吐く。
獄炎がハチを次々と焼いていった。
「おお、いいなやっぱり」
「な!?相性の悪い火属性が使えるというのかい!?きみは!?」
昇は見慣れた様子だったが、フーライは違った。
「悪魔に祝福されていてな」
驚くフーライに、正直に答える。
すると彼は……。
「ふふ、面白いね。……面白いよトールくん!」
と、遂におかしくなってしまった。
「それじゃあ、僕のとっておきも見せてあげる!その名も、複合魔法さ!!」
ふ、複合魔法だって!?
……それってなんだ?
「なんだそれ?分かるか、ライズ?」
「分からん、なんだそれ」
「知らないのも無理もないよ。攻略勢の一部しか知らないことだからね。ま、見といて」
そうフーライが言うと、杖を両腕に持ったまま目を閉じて集中し始めた。
とりあえず、ハチの掃討は任せたってことだよな?
「『スラッシュ』!フーライ、まだか!?」
「『アクア・アロー』。……後は頼んだぞ、フーライ」
俺とライズはさほど苦労することなく、周りの魔物をあらかた片づける。
といっても数が多く、残りは二十体ほどいる。
ちょっと多すぎないか?ひょっとして、ソロのときとチームのときで湧く数が違うのか?
だが、時間は稼げた。見せてもらおうか。フーライの必殺技を。
「時間稼ぎ、どうもありがとう。これでヒドゥンワスプも一網打尽さ」
彼は持っている杖を前に掲げると、一言だけ唱えた。
「『ウインド・サンダー・ストーム』!」
瞬間。
駆け抜ける風と雷が全ての対象を切りつけ、焼き焦がす。
雨雲と雷鳴があたりを支配し、範囲内の生きとし生けるもの全てに罰を与える。
もちろん、俺とライズも含めて。
おい、[タイカイノシズク]みたいな範囲技かよ!
「いった!っしびれる!」
発動してしまった以上、ここは耐えるしかあるまい。
攻撃を食らって情けない声を上げるライズを横目に、俺はひたすらじっとする。
約十秒間くらいだろうか。目も開けられないほどの嵐が晴れると、そこには……。
多くの切り傷と焼け跡だらけの木々が並んでいるだけだった。
あれだけいたハチの群れが、きれいさっぱりなくなっていた。
「すごいぜフーライ!少し見直したぞ!」
「奥義並みの威力があるな。一体どうやって習得したんだ?」
『少し』見直したライズと素直に称賛する俺。
「ふふふ!これは内緒にしておくよ。きみとの差が歴然とした頃に教えてあげる」
「なんだよ!教えてくれよ~!」
なぜか、魔法使いではないライズが気になっているようだ。
俺としては、教える教えないは人の自由だから別に気にしてない、というのが本音だ。
「そんなことより、これじゃあヒドゥンワスプが狩れたのかどうか分からないぞ」
「大丈夫!こういうときはアイテムを確認してみればいいのさ」
そう言って、辺りをとことこ歩き回りながらメニューを開くフーライ。
ややあって……。
「……ない。ヒドゥンワスプの素材、ないです」
と恐縮気味に報告してきた。
「大人しく普通の魔法で狩るか」
「はい……」
委縮して敬語になっている。別に気にしないでいいのにな。
結局、この後普通に狩りをして普通に十体のヒドゥンワスプを討伐したのであった。




