第九十四話
2024/09/18 一部を修正、加筆しました。
[第九十四話]
流石に夜遅いから、果樹園の建物の明かりは消えていた。
しょうがない。明日、ベアー討伐の達成報告に来よう。
俺はそう思いながら平原へと向かう。そのままアラニア平原を走り抜けながら、北門を目指す。
それにしても、今日も色々あったな。
ウルフの群れの討伐とオトヒメの招待。さらにベアー三頭の狩猟。
とても一日でやる仕事量じゃないな。ずっとソロだったし。
街の北門に着くと、まだクララさんがいた。
「どうしたんですかその傷!治療していってください!」
クララさんの治療を黙って受ける俺。死に戻りすれば全快になるが、所持している五千タメルがもったいない。
体力回復薬を頭から振りかけてくれる彼女。これは治療と言えるのだろうか。
「はいっ!これでオッケーです!次は気をつけてくださいよお!」
むくれ顔でそう言ってくれるクララさん。相変わらずかわいい。
体力が全回復した俺は、クララさんにお礼を言ってログアウトするのだった。
※※※
これ以上遊ぶのは明日に響くからやめよう。
俺はヘッドセッドをベッドのサイドテーブルに置いた。
「明日は……、と。大丈夫そうだな」
タブレットを操作し、明日の予定を確認する。なにも忘れてることはないな。
そうだ。航海の日取りを決めないとな。勇也にメールしておこう。
俺は勇也宛てに『航海の日程、いつにする?』と文章を打って送っておいた。
よし、これで眠れるな。
俺は洗面所で念入りに歯を磨いてから、寝室に戻り就寝するのだった。
※※※
翌日、四月二十四日、木曜日。おはようございます。
俺は大きく伸びをしてからベッドから出る。
タブレットを確認してみると、なぜか勇也の代わりに香蓮から連絡があった。
『前回の旅と同じ曜日の、二十六日の夜九時からはどうですっ?船の上ならペナルティなしでログアウトできるですっ!』とのことだった。
もちろん問題ないので、『了解!昇たちにもそう伝えておく』と返信する。
ということで、航海は土曜日の二十一時からということになった。
俺は支度をとっとと済ませて、登校を開始する。
今日は早めに出たから最後の入室者にはならないだろう。たぶん。
そう思いながら校門をくぐり、校舎に入って二階に上がる。
教室に入ると、彰の席以外は全て埋まっていた。
「おはよう!透!」
「おはようですわ、透」
昇と静が挨拶してくれる。
「おはよう、昇、静。……彰は見ないが、何かあったのか?」
「さっきメールが来てましてよ」
俺が挨拶を返して彰の所在を聞くと、静から返答が来た。
ちょうど俺が登校してるときにメールがあったらしい。
タブレットを取り出してメールを確認してみると、確かにあった。
『透、昇、静、ごめ~ん!朝から熱が出てしまって、高校行けなさそうだよ!先生には連絡してあるから、授業のメモとかあったら治った後に見せて!』とのことだった。
「しかし、熱か。体育のサッカーで無理したのが祟ったんじゃないか?」
俺は考えられる候補を上げる。
「確かにそうかもな。運動しないと免疫は落ちるが、やりすぎると体を壊す。難しいところだぜ、体を動かすっていうのは!」
昇が珍しくいいことを言う。
「とにかく体調が心配ですわ、ただの風邪だったらいいのですが……。今日お見舞いに行きませんこと?」
「いいな。移る可能性があるかもしれないが、マスクしていけば大丈夫だろうし」
「俺も賛成!部活の融通も効くし、行こうぜ!」
ということで、放課後に三人で彰のお見舞いに行くことになった。
そうと決まれば、あとは授業を受けるだけだ。
俺は前に向き直り、一時間目の授業の準備をするのだった。
※※※
さて、授業も終わり、放課後になった。
早速お見舞いに行くとしよう。
俺は必要なものをトートバッグに詰め込むと、昇と静に声をかけた。
「行こう。昇、静。準備はいいか?」
「おう、いいぜ!」
「よろしくてよ」
昇は斜めがけのボストンバッグ、静は花柄のトートバッグをそれぞれ持ち、準備万端だ。
「じゃあ、行くか!」
俺たちは揃って校舎を出て、帰り道を歩く。
「しっかし、彰がいなかったから前が空いてて黒板が見やすかったぜ」
昇がいきなり不謹慎なことを言う。
「昇、彰に申し訳ないでしょう。今度会ったら謝るんでしてよ」
別にそこまでしなくてもいいんじゃないか。本人は聞いてないんだし。
「そーだな。今のはデリカシーがなかったぜ。今度謝っておくよ」
こんな感じのくだらない話をしていると、彰が住んでいる寮棟に着いた。
俺の住んでいるところとあまり変わらないな。全部の寮で同じ見た目をしているからそれもそうか。
「彰の部屋は一階の一番奥らしいですわ。行きましょう」
静を先頭にして、一階を進む。
規則正しく並んだドアたちの横を通り過ぎる。だんだんと奥の壁が近づいてくる。
「ここだな!」
目的の部屋に着くと、昇が大声を出してドンドンドン!と大きくノックする。
お、おい。周りに迷惑だろ。
「ちょっと、うるさいですわよ!」
「寝てるかもしんないだろ。これくらい大きな音ださないと」
そう言って、再度何回かノックをする昇。
せっかちな昇がそれだけで済むはずがない。ノックを繰り返す手が自然とドアノブに伸びる。
「指紋認証だから開かないんじゃ……あれ?」
「……開いてる」
俺がどうせ無駄だろうと思って声をかけたのだが、なぜかドアが開いていた。
昇も自分で開けておきながら、情けない声を上げている。
「入るぞっ!大丈夫か、彰!?」
なにか異常があるのではと察した昇が急いで中に入る。その後に続いて静、俺も続く。
ガチャン!後ろで扉が閉まる音がする。
中の部屋は俺の部屋のつくりと一緒のようだ。となると寝室は、こっちだな。
俺は開いている寝室のドアから中に入ると、ベッドの中で縮こまっている彰がいた。
「う~ん、頭が痛い、熱っぽいよ~」
彰は思ったより重症なようだ。横になりながらうなされている。
「こりゃあひでえな。皆で看病しようぜ!」
彰の様子を見てそう言う昇。
もちろん。今日はそのつもりで来た。
俺は腕まくりをしながら、一時間ほど看病するのだった。
※※※
時刻は十六時半。
あれから俺たち三人は、勝手に彰の身の回りの整理をした。
掃除、洗濯、夕飯の準備。それらを全て終わらせ、三人とも寝室に戻ってきた。
「ありがとう~」
彰からいつもより緩い言葉で感謝をもらう俺たち。
今日はもう時間が遅いので、病院に診てもらうのは明日にしようということになった。
「重大な病気じゃなければいいのですけれど……」
「まあ、医者に診てもらわないと分からないからな。明日本人が歩けそうだったら、麓まで送ってあげよう」
「そうですわね」
「それじゃ、明日の朝八時に彰の部屋に集合な!透、遅れるなよ?」
「大丈夫だ。ちゃんと時間通りに来るよ」
昇に釘を刺される。
なぜか遅刻するイメージを持たれているが、遅れたことはないからな?
「あんまりお邪魔するのも悪いですから、これくらいにしましょう。帰りませんこと?」
「そうだな」
「じゃあな!彰!しっかり寝て元気出せよ!」
「本当の本当にありがとう~。また明日ね~」
彰の無事を祈りつつ、玄関の扉を閉める俺たちだった。
※※※
自分の部屋がある棟に戻ってきて、自室へと帰ってきた。
時刻は十七時。
彰は俺の作ったご飯を食べてくれるだろうかと思いながら、『チェリーギア』をセットする。
まあ、ちょっと熱っぽくて気分が上の空だっただけで、意識が混濁している様子じゃなかったから大丈夫だろう。
俺はそう思いつつ、もはや日課となった[AnotherWorld]のプレイを始めるのだった。




