第九十二話
2024/09/12 一部を修正、加筆しました。
[第九十二話]
前回。三魔の一体、オトヒメの話を聞いている間に失血死した俺。
数分に渡る待機時間の末、アラニア漁業組合でリスポーンした。
あれ、ここスポーンポイントなのか。
「トール!?大丈夫か!?力尽きたようだが……」
ホランスさんが近寄ってきて俺の無事を尋ねてくる。
「大丈夫です。それより、アロハメガロドンの件ですが……」
オトヒメから話は聞けなかったが、真相はおそらくこうだろう。
浦島太郎のカメに該当するキャラクターが、今回海を荒らしていたメガロドンだった。
川のメガロドンを倒した俺がアラニアにいることをどうにかして知ったオトヒメは、俺を迎えに行くためのメガロドンをアロハリュウグウに寄越した。それが付近の魔物や冒険者、漁師たちの恐怖の対象になった。
こんなところじゃないだろうか。
俺は、言える範囲のことをかいつまんで説明する。
「……つまり、討伐はしてないが、今後メガロドンがアロハリュウグウに現れることはないってことだな?」
ホランスさんが半信半疑といった形で俺に念押ししてくる。
「はい、そうだと思います。もちろん信用できないと思うので、報酬は頂きません。一週間ほど海の様子をご覧になってから、ホランスさんが支払うかどうか決めてください」
「お、おう。いいのかそれで?」
「はい、構いません」
オトヒメの加護という、十分すぎる報酬をもらったからな。お代は結構だ。
「ということで、失礼します」
俺はホランスさんとおじさんたちに一礼して、漁業組合を出るのであった。
※※※
時刻は二十時。一度ログアウトして晩ご飯にしよう。
アラニアの南門から中央広場に戻ると、俺はメニューからログアウトした。
「ふーっ」
疲れたな。
ウルフの群れの討伐とオトヒメとの邂逅。今日もいろんなことがあった。
俺は軽く伸びをして夕飯の支度をする。
今日の晩ご飯はカルボナーラだ。たまにはパスタもいいだろう。
パッケージに表示されている時間通りに麺を茹で、柔らかくなったところで皿に盛り付ける。
別で湯煎をしておいたパスタソースを絡めれば、できあがり。
ちょっと楽しちゃったな。でも[AnotherWorld]で疲れてるし、しょうがない。
俺は自分にそう言い聞かせながら、牛乳の入ったコップとフォークを並べる。
それじゃあ、いただきます。
※※※
時刻は二十一時半。
入浴と課題を済ませ、一息ついてから[AnotherWorld]にログインした。
あと一時間ぐらいやろうか。明日もあるしな。
そう思いつつ、広場にあるテレポートクリスタルで王都にテレポートする。
依頼を受けたことだし、ウォーキングカクタスの素材を取りにいかないとな。
工房に戻ると、やはりノーレッジがいた。
やつは俺を見るなり……。
「やはり、トールなら成し遂げると思っていた」
と変なことを言ってきた。
俺がオトヒメの加護を受けたことを察したのだろう。
「三魔はどうだった!?名前は!姿はどうだった!?」
興奮気味に尋ねてくるノーレッジ。
「会ったのは深海に住む三魔だった。名前はオトヒメ。姿は暗すぎて全然分からなかった」
投げかけられた問いに、俺は端的に返す。
本当に詳しいことが分からなかったので、これ以上言うことがない。礼を言われただけだし。
「……そうか。オトヒメは『深海の悪魔』と呼ばれる三魔の一体だ。会ったことがないのでな、姿が気になる!」
「どこに住んでいるとかも分からないぞ、半ば強制的に連れてかれたからな」
さらなる追及を躱すために、釘を刺しておく。
「そうか……」
ノーレッジもそれ以上詰問してこなかった。
「それより、ほれ」
気を取り直して、俺は買ってきた『魔法使いの鉄則 ~水魔法版~』をノーレッジに渡す。
「読んだら返してくれ、俺も読みたいからな」
そう言って俺はやつから離れ、アイテムボックスの元へ行く。
中からウォーキングカクタスの葉を取り出し、すぐ閉じる。
「じゃあまた行ってくるから、留守をよろしくな」
「……」
本に集中しているようだ。言葉が届いていない。
俺はそっと工房のドアを開け、外に出るのだった。
※※※
冒険者ギルドに素材を納品し、無事三つの依頼を達成することができた。
正確に言えば一つは完了していないが、いずれアロハリュウグウに危険が去ったことが証明されるだろう。
「ほい、トールは今日からDランクだ。俺としちゃあもうAランクくらいあげたいんだが、一個ずつ上げるのが規則なんでな」
そういうもんなのか、冒険者ランク制度っていうのは。それじゃあ仕方ないな。
じゃあ新しく依頼を受けてみようか。
早速カルアドネさんに聞いてみる。
「おっ、受けてくれるのかい、トール!お前さんがいれば百人力だわあ!」
またおべんちゃらを言ってくるカルアドネさん。
「あとお前さんが満足してくれるような依頼は、こんなのだな。やってくれるか?」
彼はそう言って依頼を提示してくる。
俺は映し出されたウインドウを確認した。
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[依頼]:タラフク果樹林におけるタラフクベアー三頭の討伐
〇発注者:シャーノ・デラヘルト
〇報酬:100000タメル
〇詳細:タラフク果樹林で果樹園を経営している
シャーノ・デラヘルトっていうもんだ。
最近果樹園によくクマが出没するようになってねえ。
仕切りの網を破って中に入ろうとするもんだから困ってんだ。
たまには投げ飛ばして撃退できるんだけど、
いつまでも見張ってるわけにはいかないんさ。
ベアーを適度に狩って、果樹園に
平和をもたらしてくれないかい?
討伐証明は、ベアーの牙三本でいいよ!
果樹園まで来て見せとくれ。
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こりゃあまた、すごい依頼がきたもんだ。
「どうだ?この辺りで受けられる強い魔物の討伐依頼はもうそれしかねえ。これ以上は勘弁してくれ」
別に、俺は強い魔物と戦いたいわけじゃないんだけどな。
カルアドネさんにはそう認知されてるらしい。
「もちろん、受けます。シャーノさんの頼みですから」
「おっ、シャーノさんを知ってんのかい!おっかないおば……お姉さんだよな!」
カルアドネさんもあったことがあるのか。
確かに、怒ると怖そうなおば……お姉さんだったな。
「気いつけろよ、特にあの牙と爪にはな」
親切にも身を案じてくれるカルアドネさん。
俺は以前、あの爪を食らっている。脅威は重々承知しているつもりだ。
「ありがとうございます。必ず帰ってきます」
あっ。
死亡フラグが立ったような気配を感じつつもカルアドネさんに別れを告げ、俺は冒険者ギルドを後にするのだった。




